中国の住宅価格は昨年半ばまで沈静化していたが、その後再び上昇が続いている。一般的に住宅価格高騰の背後には、住宅の持つ二面性、すなわち、住むための消費財としての‘房子’(‘房’は住宅を意味する)と、投資財・財産としての‘房産’双方への需要が強いことがある。後者の性質を重視して投資・投機対象としている者にとっては、価格高騰はむしろ歓迎される面もある。2003年以降10年間に43に及ぶ住宅価格抑制策が出されたにもかかわらず、価格は上がり続け平均10倍以上になっている。高騰を続ける住宅価格に対し、人々から怨嗟の声が上がり、政策効果への疑念が高まる一方、‘吃着椀里、看着鍋里’(お椀の‘里’、中の物を‘吃’、食べながら、鍋の中を‘看’、見る、‘着’は動作の進行を表す、貪欲極まりないこと。明時代の長編小説「金瓶梅」や、清時代の「紅楼夢」の中での表現として有名)的な感情を持つ者も多く、効果の出ない政府の住宅価格抑制策は、そうした感情をむしろ高めているだけとの指摘もある。そもそも住宅価格が上昇基調にあるのは市場の需給関係によるもので、政府の度重なる人為的抑制策は効果が上がらないだけでなく、むしろ人々に一層の価格上昇期待を与え、いわゆる合理的期待仮説の下では、価格を一層上昇させる要因になっているだけで意味がないことを、政府は理解すべきだとの冷めた指摘まである(4月30日付一財網)。一理ある議論だが、現下の住宅事情からすると、時間をかけて市場に解決を委ねることは、住宅に手の届かない一般庶民が許さないだろう。

主要都市新築住宅販売価格推移

住宅問題に対応する政策のひとつとして推進されている低所得者向けの保障性住宅の建設については、2008-12年の5年間で3,000万棟以上が着工し、うち1,700万棟の基本建設が終了、さらに農村の危険な住宅1,033.4万棟の補修が行なわれた。現12次5ヵ年計画期間で見ると、2011年、12年の着工件数は各々、1000万棟、780万棟、12年には600万棟の基本建設が完了している。13年も新規着工600万棟、基本建設完了460万棟が目標値として設定されているが(8月12日付経済参考報)、1-7月で500万棟が着工、280万棟が完工している(中国住房和城郷建設部)。5ヵ年計画では、計画期間が終わる2015年末までに3,600万棟を整備する目標を掲げており、残り2年間年平均600万棟程度のペースで着工すると、ほぼ目標を達成できる見込みで、近年の実績からすると、実現可能ではある(ただし、目標が着工ベースなのか、完工ベースなのか明らかでない)。ただ仮に計画を達成したとしても、なお6,000万人(1日1.25ドル以下の生活)とも2億4,000万人(同2ドル以下)とも言われる貧困層の存在を考えると、まだまだ十分とは言えない数だ。


さらに、庶民の不満を引き起こしているより重要な問題は別にある。以前から指摘されている、高級車を乗り回しているような‘開豪車’(‘豪車’は高級車、‘開’は車を運転するで、富裕層を象徴する)が、所得を偽ってこうした保障性住宅を購入するという不公平に加え、最近は次のような問題も生じている。すなわち、ある地区の住宅監督当局の数字では、当該地区で建設された保障性住宅のうち、実際に庶民用として表に出てくるのは3分の1にすぎず、残りは関連の役所・役人が審査の過程で職務上の権限を利用して、あるいは開発業者が建設の過程でなんらかの方法で自らのものにしてしまうという例が見られる。本年初には、河南省鄭州市の住宅監督局長が自分の小さな娘の名義で11棟の保障性住房を所有、その他の家族名義も含めて計29棟の住宅を所有していたとして、‘房奴’(住宅奴隷、数年前からの流行語)ならぬ‘房妹’、‘房叔’、‘住房大戸’、‘経適房家族’(‘経適房’は保障性住房のひとつ、経済性と適用性を持つ低廉住宅)の出現だとメディアで大きく取り上げられた(1月19日付鳳凰網等中国各紙)。これらの問題の背後には、もちろん隠れた収入の存在という所得の把握の難しさや、その背後にある‘贪汚’(腐敗汚職)というやっかいな事情がある。8月、日本の会計検査院にあたる審計署が発表した調査結果によると、2012年、保障性住宅の条件に適合していないのに入居していた家庭は11万戸、その他、重複して保障性住宅の提供を受けていた件数が1万以上、家賃補助の重複受け取り総額2,137億元、保障性住房の建設資金の横領は360件、58億元にのぼるが、もちろんこれらは‘氷山一角’と受け止められている。


もうひとつの問題は、保障性住宅が建てられても空いたままになっているところが多いという‘有房無人’と呼ばれる状況だ。8月、山東省1.29万棟、広東省1.15万棟、雲南省2.3万棟、海南省9,000棟以上といった数値が、各地方政府から出されているが、空室率が高いことは今に始まったことではなく、昨年もすでに、平均で51.3%、高いところでは70%の空室率の保障性住宅もある等が伝えられている。山東省では、1.29万棟のうち4割近くが、6ヶ月以上‘有房無人’状態、また深圳では100余の経適房で4年以上空室状態が続く等(以上、8月12日、30日付経済参考報)、空室状態が長いことも特徴で、単に内装工事を待って空いているだけではないものが多いことは明らかだ。基本的要因は、多くの保障性住宅が、都市の中心から遠く離れた場所に建てられ、通勤にきわめて不便であること、また基礎的インフラ面での生活環境が整えられておらず、住宅の質そのものにも問題が多いことである。例えば、深圳に建てられた保障性住宅への申請をとり止めた者は、その理由として通勤時間に3時間かかることを挙げ、また海南省では24の工事について‘偸工減料’(手抜き工事)、‘以次充好’(基準を満たしていない)が判明し、そのうちの770棟で壁の亀裂、漏水等構造上の問題が指摘されたと伝えられている(8月8日付経済参考報)。大量の空室があるということは、保障性住宅が‘保障’の機能を果たしていないだけでなく、資金や土地といった資源を浪費していることも意味している。マクロ経済調節の観点からは、一定程度の投資を維持していくため、今後さらに建設のペースを上げることが有効だろうが、社会政策的観点からは、こうした構造的問題の解決がより求められている。

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