アジアンインサイト
ASEANにおけるモータリゼーションの将来像雑感

2013年8月30日

  • アジア事業開発グループ コンサルタント 江藤 哲寛

モータリゼーションが本格化するとされる1人あたりGDP3,000ドルを超え、自動車の普及が加速しているインドネシア。インドネシア自動車工業会によると、2012 年の国内新車販売台数は110 万台を突破し、2020年までに200万台まで拡大すると予想されている。また、ASEAN6ヵ国(※1)においても2013年1~6月の自動車販売台数は約182万台と前年同期比15%増を記録し、順調な市場拡大が続いている。そんな中ASEANの自動車市場の多くで圧倒的な存在感を示しているのが日本車である。2011年にASEAN6ヵ国で77%だった日本車シェアは2012年に80%に上昇した(※2)

日本車メーカーが従来得意としてきたのは価格が1万ドル以上の自動車で、上位中間層が主なターゲットであった。中でもタイ・インドネシアではピックアップトラックやMPV(※3)など比較的大型車種を中心に展開してきた。タイではピックアップトラックを所有することはステータスであると言われるほど人気が高い。

このような日本車人気が続く一方で、ASEANの自動車市場が今後大きく姿を変える可能性が出てきた。例えば、インドネシア政府は低所得者層にも自動車を普及させる目的で、LCGC(Low Cost Green Car)政策を導入しようとしている。LCGCでは軽自動車に相当する車種の生産が優遇される見込みで、超低価格市場が立ち上がる可能性が出ている。第一弾として9月にも50万円から80万円程度の優遇措置適用車が発売される見通し。独フォルクスワーゲンもLCGCを見据えて50万円前後の超低価格車を投入するとみられており、低所得者向けの自動車需要が喚起されそうだ。今後の市場動向による車種展開の潮流について私見を述べてみたい。

インドネシアはASEAN域内の約40%にあたる約2億4,700万人という人口を持ちながらも、いまだ1,000人あたりの自動車保有台数が85台と低い。その分、潜在的自動車需要は大きいはずであり、超低価格車市場が急拡大する可能性を秘めている。日本車メーカーはASEANでの高シェアを維持するためにも、これまで焦点を当ててこなかった超低価格車市場にも目を向ける必要があるだろう。

超低価格車市場とは別の市場変化として注目されるのがエコカー市場である。例えば、タイやインドネシアでは慢性的な渋滞に起因する社会問題が指摘されており、今後排ガス規制が強化される方向だろう。また、エネルギー問題に係るガソリン価格の上昇懸念も拭えない。そのため、これら2つの市場をターゲットに「価格が安く、環境にも配慮した燃費の良い自動車(エコカー)」を中心とした商品ラインナップを検討することが有用だろう。

では「エコカー」と聞いて思いつくものはどのようなものであろうか。エコカーにはさまざまなタイプのものがあり、第一は、日本車メーカーが得意とするハイブリッド車(※4)や電気自動車だが、欧州車メーカーではダウンサイジングターボ車(※5)やディーゼル車がエコカーとして人気が高い。これらの中から、インドネシアのような新興国の所得水準を考えると、日本のお家芸である高価なハイブリッド車を導入・展開するよりも、低価格が売りで、かつ「省排気・省燃費」を狙ったダウンサイジングターボ車の設計思想のほうが今後の市場拡大に寄与する可能性が高いと考える。

ASEAN経済は足元では減速しているが、中長期に渡って成長が見込める地域である。日本車メーカーはこれまでASEANで高シェアを誇ってきたが、将来的に競争が激化していくことは明白だ。市場構造の変化に合わせたマーケティングを行うことを望むとともに、技術立国ジャパンとして魅力ある車種展開が行われることを期待したい。

図表1:ASEAN6ヵ国の新車販売台数

(※1)タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム、シンガポール
(※2)2013年7月29日 日本経済新聞電子版
(※3)Multi-Purpose Vehicleの略語で多目的車という意味。ミニバン・SUVなどを指す
(※4)ガソリンで動くエンジンと電気で動くモーターの両方を組み合わせたもの
(※5)車格はそのままにエンジンの排気量を減らし、ターボでエンジン出力を補ったもの

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