2013年3月1日、中国教育部が発表したデータによると、2012年に中国から外国へ留学した学生の総数は39万9600人、うち私費留学生は全体の9割以上を占め、37万4500人となった。2012年、海外留学中の中国人学生は合わせて110万人程に達し、世界の留学生の20%程度を占め、世界一となった。


近年、国民の収入の増加と国内の教育資源の不足を背景に、中国では新たな「留学ブーム」が起きている。また、金融危機の影響を受けた世界各国が留学生を招くために打ち出した政策も、中国人留学生に様々なメリットをもたらした。このため、今後もしばらく、留学ブームが続くと見られている。


一方、「留学ブーム」に伴い、留学生の「帰国ブーム」もますます盛んになっている。「2012中国統計年鑑」によると、2000年から2012年における中国人留学生の帰国者数は年率32.5%増加し、2012年には中国人留学生の帰国者数が27万2900人に達した。


留学は、中国でかつてエリート学生のみの特権だった。70年代末~80年代初、中国では改革開放政策が採られ、社会の各方面で改革が行われてきた。また、欧米諸国の先進科学技術を習い、文化大革命によって多大の影響を受け欧米諸国との経済格差を取り戻すため、1978年に最初のアメリカ留学組が派遣され、長い間、中断されていた留学生の海外派遣が再開され、中国で第1回目の留学ブーム期に入った。この時期の中国人の海外留学は、ほとんどが公費留学によるものだった。


その4、5年後、修士・博士号を取得するために海外進出する私費留学生が大量に現れた。本物の「海帰族」(海外から帰国する人)として、バイリンガル・バイカルチャー人材と見なされるようになり、全国から注目を集め、高く評価された。「海帰族」はエリート階層、高収入階層の一つの代名詞になった。 


図1に見られるように、2000年前後から海外への留学者数が急増し、第3回の留学ブームが現れた。この留学ブームでは、高校を卒業した後、直接海外の大学に入学する留学生も出てきた。従来の留学生と異なり、この留学組は、国内の熾烈な大学入学競争から逃れるため外国へ留学するケースが多く、将来の専門分野やキャリアについてはっきりした計画も持っていない。一部の富裕層の留学生は、成績は普通だが、経済的に恵まれていることから海外の大学に入学するのは簡単なことだった。しかし、留学生の人数が大幅に増加する反面、海外留学生の質も低下し始めた。2003年から、留学生の帰国者数も急増し、2005年までに「海帰族」は23万人を超えた。各界で活躍する「海帰族」が存在する一方、仕事さえ見つけられず、苦闘し自宅で待機する「海待族」が出始めたのである。


留学による明るい未来の獲得はだんだん難しくなるように見えたが、この数年、第4回の留学ブームが巻き起こった。「大衆化」、「低齢化」がその特徴で、多くの未成年の学生がその主流となった。関係調査によると、現在、中国から海外留学した中高生以下の低年齢層は全体の22.6%を占めているという。「90後」(1990年代に生まれた子供)、「00後」(2000年代に生まれた子供)の留学組は主にイギリス、アメリカ、オーストラリア、カナダを留学先として選択した。アジアの中で最も人気が高い国・地域はシンガポールと香港。日本は東日本大震災と昨今の日中関係の悪化が影響し、留学先に選ぶ学生が昔に比べ減少傾向にある。低年齢で子供を留学させる親は、海外の教育レベルの高さ、中国国内の受験戦争の壮絶さ、就職時の優位性などを挙げる。しかし、成人してからの留学に比べ低年齢の留学にはデメリットもあると思われる。基礎教育の段階において、中国内外の教育方法には大きな違いがある。海外で自立した生活をしなければならないこと以外にも、価値観、世界観、道徳観などの形成に大きな影響が生じる。低年齢で留学して中国に帰国した場合、社会になじめないことがある。帰国してからの就職も以前ほど恵まれていない。調査研究報告によると、現在、留学生の約70%は中国に帰って就職しているという。その多くの「海帰族」にとって、帰国後の初任給は低いようだ。36.5%は年収4万元(約64万円)未満で、67.2%は6万元(約96万円)弱だ。これは、50~100万元(約800~1600万円)の留学費用と比べ、「投入」と「産出」のバランスが大きく崩れていると言えよう。


社会の発展と留学の普及に伴い、海外帰国組が珍しくなくなった時代になったことは、まぎれもない事実であり、社会も彼らを再評価し始めている。 海外帰国組は、多くの層で構成されており、各層にはそれぞれの特徴があり、社会に対する貢献の内容も違う。社会は、海外帰国組を客観的に受け入れる心理状態を持ち、彼らに対し褒めすぎ・けなしすぎは避けるべきだ。彼らの優位性に注意を払い、より多くの発展の機会を与えるべきだろう。

中国海外留学生及び帰国者人数の推移(1978-2012年)

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