アジアンインサイト
バイオマス通信2 米国バイオエタノール産業の急成長の歪と日本のバイオマス海外戦略

2013年8月2日

  • アジア事業開発グループ チーフコンサルタント 桑山 昌平

トウモロコシの4割を使用し中西部に集積するバイオエタノール産業
米国のバイオエタノール産業は、2005年のエネルギー政策法で自動車ガソリンへの混合使用義務量を定めた再生可能燃料基準が設けられて以降、急成長を遂げ、2012年の生産量は133億ガロンと2005年の39億ガロンの3.4倍規模となった。現在、ガソリンに混ぜるバイオエタノールの比率は10%(E10)だが、2012年に環境保護庁は2001年以降生産の自動車に対しE15まで認めている。原料は、米国が世界生産の36%、総輸出量の41%を占めるトウモロコシで、産業はアイオワ州を中心とする中西部のコーンベルト地帯に集積している。米国のトウモロコシの作付面積は日本の国土面積に近く、中西部5州がその半分を占める。2005年までは、バイオエタノール産業のトウモロコシ使用量は全生産量の10%以下であったが、2012年には飼料と匹敵する約40%を原料として使用(ただし、同時生産の発酵残渣飼料は除く)するまで巨大化した。

高まる再生可能燃料基準見直し議論
バイオエタノール向け新規需要の増大は、余剰気味だったトウモロコシ価格を押し上げて来たが、2012年夏に米国中西部を襲った大干ばつで、先物価格は急騰し、畜産業界や食品業界は大きな打撃を受けた。元凶はバイオエタノール産業として、安全性低下、設備コスト増加、財政負担増でもともと反対の立場の石油/自動車団体に畜産・食品団体等や州が加わり、再生可能燃料基準の見直しを求める、いわゆる「食料か燃料か」の議論が広がった。これまでのところ、2022年に360億ガロンの使用義務を定めている同基準に変更は無く、またトウモロコシ先物価格も豊作の収穫予想で落ち着いているが、この夏の天候次第では、見直し議論が再燃する可能性がある。

期待の第2世代にも課題
バイオエタノール産業が食料に影響しない新規原料として期待するのは、いわゆる第2世代のセルロース(繊維質)由来のバイオエタノールである。再生可能燃料基準では、原料別に使用義務を設けており、トウモロコシ由来の使用義務は2012年に150億ガロンで頭打ちとなる。2014年以降の使用義務増加の中心となるのがセルロース由来の原料で、2022年に160億ガロンと設定している。しかし、技術開発の遅れでセルロースを原料とする商業プラントが無く、環境保護庁も2013年の使用義務を10億ガロンから0.014億ガロンに引き下げた。2014年からは、デュポン社やポエト社など大手が中西部で農業残渣(トウモロコシの芯、茎、葉)を原料とした商業生産を開始する予定だが、今回の制度見直し論議の中で2022年の使用義務の現実性や、土に戻すべき農業残渣有機物の減少による中西部土壌侵食の加速化(中西部は地下水の農業利用で水位が下がり、塩類集積が進行しているため、農務省は、輪作や休耕、水管理強化で土壌保全に努めていた)も課題として、議会に上がっており今後の展開が注目される。

第2世代の立上げとアジアへの輸出開拓が課題
急成長ゆえの歪で他産業からの批判が強まっている米国バイオエタノール業界であるが、原料価格の高騰は業界自身の採算も悪化させた。価格変動の少ない農業残渣への原料多角化が軌道に乗るか、また、使用義務の上限を迎えるトウモロコシ由来エタノールのアジア等の輸出市場の開拓が進むかどうか、業界は今後、バイオエタノールが自動車燃料のみならず、化学などの重要な原料へ飛躍してゆく基礎作りのためにも重要な転換点を迎えている。

米国の課題と日本のバイオマス海外戦略
日本では、バイオマス事業化戦略の海外戦略として、「持続可能な事業モデル」と、「国内外で食料供給等と両立可能な次世代技術」を基盤に「アジアを中心とする海外で展開」が謳われ、アジアでの事業展開を視野に入れている。大和総研も育種や機械化など日本の技術を総合活用し、中国・アジアでバイオマス事業展開を試行しているが、米国バイオエタノール産業の急成長とその歪は、持続可能な事業展開を目指す上で参考となる。

揺るぎない国家戦略がアジアでの事業化のカギ
まず、バイオエタノール事業の成長のためには、米国のような国の揺るぎない支援が必要である。これは、農産物価格と石油価格の市況に挟まれ、不確定な事業環境にある事業にとって、明確な需要増加の政策保障が最低限必要である。

技術の優位性のみで事業化は不可能
次に、米国のバイオエタノール産業は中西部に集中して急成長したが、これは、原料調達など農業に関するあらゆるインフラが長い歴史の中で整っており、地元政府や関係者と利害調整が比較的容易という条件が揃っていたことによる。インフラの弱い中国やアジアの場合、技術の優位性だけではいきなり事業はスタート出来ない。すなわち、自治体や農民との合意形成は計れるか、大量の原料の調達と運搬はどうするか、大規模農業のインフラ(種苗、肥料農薬、大規模機械、農業指導機関などサポート産業)をどう手当てするかなど、腰を据えた経営上の課題解決がはるかに重要であろう。

飼料とバイオエタノールの両立
三番目は、トウモロコシは畜産業の成長著しい中国、アジアにとり重要な飼料で、今後もトウモロコシ価格の低下を期待することは難しい。それゆえ、米国バイオエタノール産業の課題は、日本やアジアでも共通する。事業化には、飼料調達で困っている畜産業者と連携し、バイオマス量が多く、飼料との補完が可能な新たな飼料作物生産とバイオエタノール原料確保を両立させるような循環型の事業スキームが、アジアでは実現性があろう。

眠れる知財を総合して、農業不適地を開発
最後に、バイオエタノール産業を本格的に起こすには、広大な農地を確保する必要がある。中国を除き大規模農業が浸透していないアジアではそれは困難である。水資源や土壌侵食の問題は全世界的問題である。例えば、アジアにも、中国東北部に広がる農業に不適なアルカリ塩類集積地など、広大な農業不適地がある。日本には土地が無いが、バイオマス技術の他、有機物や脱硫石膏投与などの土壌改良や土壌検査・汚染除去の知見、塩害・乾燥に強い作物の育種栽培技術、新しい飼料を開発する畜産技術、水質管理や再利用技術等、アジアには乏しい数多くの知的財産がある。これら日本に眠るあらゆる技術を集結し、アジアに広がる農業不適地を改良することが出来れば、そこに米国に匹敵するバイオマス産業を集積させることが可能と思われる。

事業の実践にこそ支援が必要
アジアの問題は、日本の問題である。自動車と畜産の成長が著しいアジアの中で、自動車燃料と飼料の奪い合いは避けなければならない。その課題解決のために、主体性を持ち眠れる知的財産を投入することは日本のアジアにおける役割であり、自動車燃料も飼料も海外に依存する日本の新たな安全保障の形ではないか。バイオマス海外戦略では、単発技術に偏重することなく、アジアで総合的に事業化を実践する事業者に対する支援を強化することも検討に値するだろう。

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