アジアンインサイト
中国経済を見る戦略キーワード(6)

地方政府と財政

2013年8月1日

  • 常務理事 金森 俊樹

土地財政―不動産市況で地方歳入が大きく変動

地方政府の歳入は土地関連の歳入に大きく依存しており、なかでも都市開発に伴うインフラ整備を目的に農地を収用し開発業者に転売、あるいは国有地の使用権を民間企業に譲渡することによって得る歳入が大きい。このため、地方政府の財政は、財政基盤が不安定な土地財政と称されている。昨年後半から不動産市況が反転すると、にわかに地方の歳入も上向き始め、図らずも土地財政の実態が浮かび上がった。土地出譲収入(国有土地使用権譲渡収入)が大半を占める地方政府の政府性基金収入は、昨年8.7%減少したが、昨年後半以降、不動産市況が再び好転したことを受けて、2013年上期には一転して対前年同期比41.9%と大幅に増加している。その86.2%は土地使用権譲渡収入16,722億元、対前年同期比実に46.3%の増加だ。上期には、その他の土地関連の税収も、土地増値税28.1%、契税39.8%と大幅に増加し、地方財政収入総額の対前年同期比は13.5%と中央の伸び1.5%を大きく上回っているが、土地関連の税収を除くと10.3%の伸びに留まっている(7月31日付経済参考報)。山東省を例にとると、不動産関連の税収は上期432億元、対前年同期比56.7%の伸びで、税収全体の増加の53.7%は不動産関連の税収増による(同、経済参考報)。地方政府の財政がいかに不動産市況に左右されているかが明らかだ。

主要都市新築住宅販売価格推移  (2011年1月以降、前月比%)
地方政府の土地関連歳入 

地方政府が土地財政になった基本的背景は、1994年の分税制改革(*)後生じた中央と地方の財政収支倒挂(‘倒挂’は逆さまにぶら下がった状態、収支が逆さまになっていること)、錯配(歳入と歳出のミスマッチ)の下で、地方が土地に依存して歳入確保を図る借地生財に追い込まれたことである。中央と地方の歳入のシェアは、分税制改革直前の1993年は中央22%、地方78%だったが、2011年には中央49%、地方51%となる一方、歳出のシェアは、1993年、中央28%、地方72%に対し、2011年は中央15%、地方85%だ。

(*)それまでの地方財政請負制(中央政府と各地方政府が個別交渉で当該地方から中央への上納金を予め決めておき、上納後の余った財源を各地方に留保する仕組み)を改め、国と地方間での全国統一的な税源配分(増値税・消費税の配分割合は国:地方=3:1、企業所得税・個人所得税は3:2など)と、税収の対GDP比率と中央のシェア引き上げを目的としたもの。他方、教育・医療・福祉などの公共サービスの支出責任は引き続き地方に委ねられたため、上位政府からの財源移転が十分行われないと、地方は慢性的財源不足に陥る構造となった。

中央と地方の歳出入シェア

6月、日本の会計検査院にあたる審計署が公表した調査結果によると、大半(15の省都と3直轄市のうち17)が、債務を返済するにあたって、土地出譲収入に過度に依存している。2012年、平均すると、土地売却収入で返済した債務は返済総額の54.64%、10年比3.61%ポイント上昇している。

地方政府は魚のにおいに反応する猫?

2012年中頃から不動産市況が再び反転し始めた背景のひとつに、公積金貸款(住宅積立金を原資とする低利子住宅ローン)の最高限度額を引き上げる動きが地方政府に見られたことが指摘された。公積金貸款は、その時々の地方政府の政策意図・方向を示唆するものと市場が受け止める場合が多い。臭魚効応(反応)、すなわち、猫(不動産関連収入に頼る地方政府)の周りに魚のにおい(不動産市場)がある限り、市況を好転させるため、地方政府が様々な微調整を行う現象のひとつというわけだ。中央が様々な抑制策を打ち出しても、地方政府に底気(遂行する確固とした信念)がない。土地財政の延命を望む地方政府の(麻薬中毒)とまで評する論者もいる。土地財政盛宴は、いずれは終わりを告げるとしても、いかなる道筋を辿ることになるのかがより重要となる。土地財政からの脱却には、土地所有権や土地経営管理機能の問題、税体系全体の改革が絡んでおり、一役(ひとつの行動で一気に解決すること、かつて孫文が、民主革命と社会主義革命は異なる性質の革命プロセスで、一挙には達成できないと述べたことでも有名な表現)は期待できない。

ルールに反した徴税を誘発

土地財政のため、いったん不動産市況が低迷すると、地方政府の歳入は直撃され、昨年も一時問題となった過頭税(行き過ぎた税の徴収)と呼ばれる現象が生じる(2012年10月22日アジアンインサイト「経済減速で顕在化する中国財政の問題」)。過頭税には、一般的に、時間的な概念と程度の概念がある。前者は、卯糧(卯の年の‘糧’、収穫を前倒しして、寅の年に‘吃’、食べてしまう)の行為と呼ばれるように、徴税当局が法定納税時期を前倒しして税を徴収すること、後者は勝手に税率を引き上げて課税することである。各種罰則金を裁量的に引き上げる、また資格要件を厳しくして優遇税率が受けられないようにするといった乱収費もある。その根本的な背景には、上述の歳入・歳出のミスマッチがあるが、地方政府の意識の問題も大きい。地方政府の間にはなお、成長率を始めとする「数値」をことさら重視する傾向があり、数字出官、官出数字、なんとか高い数字を上部に報告し、上部はその中身をよく吟味することなく、高い数字を報告した者を重用するという事例が跡を絶たない。税収面でも、毎年、各級地方政府の要求を満足させるため、税務当局が税収増加目標値を設定し、それを達成することが業績評価に繋がるというシステムがある。頻繁に幹部が替わる場合が多く、過客心理(当事者意識が薄く責任感の乏しい心理状態)の幹部が増えており、そうした者は特に、こうしたルールに反した安易な行動に出る傾向があるとも言われている。過頭税乱収費の問題は一方で営改増(サービス産業への営業税課税を増値税に切り替えていく措置、現在進行中)といった企業減税をしても、他のところで同じ企業に負担を強いており、全体としての負担は何も変わらないという羊毛出在羊身上(羊毛は羊からしかとれない、すなわち、金のあるところからしか金は取れない)の結果になっていることを示すものと皮肉気味に受け止められている。有税尽収・無税禁収(税のあるところからは漏れなく税を徴収するが、ないところからは徴収しない、韻を踏んだ表現)という当たり前の原則が、改めて叫ばれている。

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