アジアンインサイト
南シナ海問題と無縁ではないインドネシア

2013年6月20日

  • アジア事業開発グループ シニアコンサルタント 天間 崇文

昨年から今年にかけ、東シナ海だけでなく南シナ海においても中国の海洋権益の主張が激しさを増している。中国がそれらの権益を「核心的利益(core national interest)」、すなわち「妥協の余地のない国益」、と表明したとする報道もあり、その態度に軟化の兆しは見られない。

世界地図を見ると、南シナ海とは、北を中国と台湾、東をフィリピンとマレーシア、西をベトナム、南の出口をインドネシアに囲まれた、熱帯・亜熱帯の広大な海域である。そこには中小の島嶼が数多く存在し、1970年代以来、沿岸各国の領有権争いの場となってきた。直近の主な摩擦としては、2013年5月に発生した西沙(Paracel)諸島でのベトナム漁船と中国船の衝突事件、2012年4月にスカーボロ礁(Scarborough Shoal)で中国監視船とフィリピン海軍艦艇が対峙した事件などが挙げられる。その事件後、中国がフィリピンに発動したバナナの実質的輸入制限により余剰バナナが日本に流入、バナナ価格が下落してバナナ好きには思わぬ僥倖となったのは記憶に新しい。

 
世界地図
注: (1) 赤い点線は、中国(及び台湾)の主張する粗い領海線を補間したもの。ただし中国は、領有権の主張がこの赤点線内全域に及ぶのか否かを明言してはいない。(2) 図中の各国EEZ(排他的経済水域:青点線)の境界は、各国が領有権を主張する境界とは必ずしも一致しない。たとえば、南沙(Spratly)諸島のほとんどはベトナムのEEZの外側にあるものの、ベトナムは南沙諸島全域の領有を主張しているとされる。(3)ナツナ諸島とは、上図でインドネシアEEZとされる海域の中央付近にある島嶼を指す。
(出所)Eurasia Review 記事(2012年9月10日)、米国議会調査局報告書(2013年4月9日)

南シナ海における中国(及び台湾)の領有権のそもそもの主張は、1947年に当時の中華民国政府が発表した、U字型の領海線を根拠としている(上図参照)。しかし、①この主張が国際的に認められたものではないこと、②当時は中国の実効的支配が当該海域に及んでいなかったこと、③その後独立した沿岸の東南アジア諸国が独自の主権を主張しはじめたこと、④南シナ海で海底資源の存在が示唆されはじめたこと、が相俟って、周辺各国がそれぞれ島嶼の支配や占拠を進めることとなった。

では、同海域の南端に位置するインドネシアは、中国の主張と無縁でいられるのだろうか? 答えは否。上図からわかるように、中国の主張する領海とインドネシア北端ナツナ諸島周辺の排他的経済水域(EEZ)とは重複するとの見方がある。この海域は、豊富な天然ガスの埋蔵が確認されているだけでなく漁業資源も豊富であり、その領有はインドネシアにとって極めて重要である。しかし、インドネシアが主張するEEZ海域において2009、2010年と続けて中国漁船が操業し、両国の主張が対立する事件があった。特に2010年の事件では、中国漁船を取り締まり中のインドネシア艦艇に対し、中国の監視船が漁船の解放を迫るという緊迫した事態に発展している。幸いその後、両国間の表立った摩擦はない模様だが、元々のU字線の地理的座標が曖昧なままであることと、周辺国に対する中国の強気な主張を勘案すれば、インドネシアとしても警戒を怠るわけにはいかないだろう。

上述のような動きを見せる中国に対し、インドネシアの対応は以下のように硬軟とりまぜたものになっている。

対抗措置としては、ここ数年は好調な経済を支えとして新鋭戦闘機や潜水艦等の購入と配備を進め、2013年時点ではスラウェシ島に新たな潜水艦基地を整備中である。また、国軍はナツナ防衛の決意を改めて表明しており、フィリピン、ベトナム、ブルネイ各国海軍との連携パトロールを検討中との報道もある。国際政治の場においても、2011 年のASEAN 議長国であったインドネシアは、当事国間協議を尊重すべきとする中国に対し、ASEANと中国を含む多国間協議の推進を積極的に支援した。同年バリで開催された東アジアサミットでも、国際法の尊重と平和的問題解決の原則を首脳宣言に盛り込み、歴史的根拠で領有権を主張する中国を牽制している。

その一方で、中国との友好関係の演出にも余念がない。その背景には、①貿易や国内インフラ開発など経済面での中国の存在感が増大しており、国内経済の成長持続には中国との友好関係が重要であること、②国内人権問題など欧米との火種を抱えるインドネシアにとって、対中関係の維持は欧米の干渉を牽制する重要な手札であること、等の事情がある。2005年には、中国との戦略的パートナーシップの樹立に合意し、貿易、投資から国防までの幅広い分野で協力関係を結んだ。2011年には、ミサイルの共同生産や軍事技術移転等に関する覚書に両国が署名している。

ASEANの経済統合が進む中、自国への直接の影響に加えて他のASEAN諸国の対中関係など、インドネシアの対中外交を左右する要素はますます増加、複雑化すると予想される。その中で、自他ともに地域大国と認めるインドネシアが南シナ海問題でどのような舵取りを選択するのか、東南アジア地域の将来を大きく左右する問題であり、今後も目が離せない。

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