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腐敗・汚職への庶民の怒り

2013年6月13日

  • 常務理事 金森 俊樹

社会に蔓延する腐敗・汚職、特に役人や富裕層に対する庶民の怒りが、ネット上で次々と新しい流行語を生み出している。昨年、陝西省で多くの死傷者が出る重大な交通事故が発生した際、現場を訪れた省の老虎(高級幹部)の笑い顔がネット上で出回り、人々の反感を買った。幹部の腕に名表(‘名牌手表’の略、‘名牌’は高級ブランド、‘手表’は腕時計)がはめられているネット上の写真が注目され、その後、同幹部は他にもいくつもの名表を所持していることが暴露されるに至り、(元々は‘いとこ’を意味する。女性の場合は表嫂)が、(腐敗・汚職)を象徴する用語となった。

本年初、約10年ぶりに発表された基尼(ジニ、中国語の発音のあてはめ)係数も、腐敗や汚職から発生する黒色収入が把握できていないため過少推計になっているとして、なんらかの腐敗係数のようなものを乗じて調整する必要があるとの主張まで見られる(2013年2月1日コラム「中国ジニ係数公表の波紋」)。3月の全人代における最高人民検察院報告によると、2008-12年、収賄・横領で立件された公務員は約22万人(うち省長級30人、局長級950人)、その前の5年間は約21万人だった。摘発が強化されていると見るのか、腐敗・汚職が相変わらず減っていないと見るのか、数字の判断は難しい。2011年から公開し始めた中央省庁の公務出張旅費、公用車購入維持費、公務接待費のいわゆる三公経費も、逆に経費が公表されることにより、それが役人にとって、名正言順(完全に正当化された)合法腐敗地帯になっているだけとの批判が絶えない。

中央省庁の三公経費 

(資料)財政部発表資料より作成


新指導層も腐敗・汚職の問題に危機感は持っており、昨年11月の党大会後、新指導層が、踏石留印抓鉄有痕(石を踏んで石の上に足跡を残す、また鉄をつかんで鉄の上に痕跡を残す、徹底的に業務を遂行する)の決意で、老虎も(トラは高級幹部、ハエは一般の公務員を指す)一網打尽にすると発言したことで、新指導層のこの問題解決への意気込みが注目されている。習近平国家主席は、2012年12月、共産党総書記に選出された後の政治局会議で、政治局員に対し、会議の簡素化・効率化、出張の際の送迎・接待の簡素化や同行者の縮小、各種の儀礼的な慣行の禁止、質素節約の励行などを指示し、一応その意気込みを示した形となっている。その後、これは8項目から成るため、習八条と呼ばれている。ただネット上では、実際にこの政治局会議を指揮したのは規律担当の王岐山常務委員で、本来は王八条と呼ぶべきだが、それは不礼(‘礼貌’は礼儀正しい、国家主席に失礼ということか?)で、習八条となっているとされている。党中央紀律委員会は、その後約半年の間に習八条に違反した件数は2,665件、処分した人数は2,990人と発表している。習八条発表直後は、さすがにやや雰囲気が変わったようだが、ほどなくネット上では、吃喝一条街(‘吃’は食べる、‘喝’は飲む、高級レストランが立ち並ぶメインストリート)で、1本5-6,000元(日本円で10万円近い)以上する茅台酒のラベルをはがす、あるいはミネラルウォーターのビンに入れ替えるといった偽装、高級レストランの前に停車している際に車のナンバープレートを隠すといった事例、さらには、銀行が自社ビルの上に一般のエレベーターでは行けないプライベート倶楽部を設けて特別の客を接待するといった事例が多く見られており、高級官僚の吃喝玩(‘玩’は遊ぶ、贅沢三昧)は、まさに死灰復燃(死んだように見えていた灰が再び燃え出す)だとの声が出ている。5月末、紀律委は規律問題担当者を対象として全ての会員制カード(いわゆるVIPカード)を返上させるとの方針も出した。こうしたカードと汚職が密接な関係にあることを認識したもので、庶民からは「一応歓迎はできるが、一陣風にすぎず、長続きしないだろう」、またビジネス関係者の受け止め方は淡定(冷めた、落ち着いたの意、ネットで流行)で、「カードの秘密性は高く、誰が持っているか調べることはできないはずで、ビジネスに影響することはない」といった声が聞かれている。

ほんとうに生老虎の腐敗汚職摘発までいくのか、死老虎(すでにこれまで摘発された一部の高級幹部)のことを言っているだけではないのか、特に裸官の取締まりまでいくのか、なお庶民の疑念は大きい。腐敗・汚職問題に詳しいとされる共産党中央党校教授によると、裸官には3種類ある。第一は、本人が海外に留学した際に配偶者子女を一緒に連れて行き、本人が帰国した後も引き続き家族が海外に留まっているケース、第二は、本人が国内で勤務している時に配偶者が海外に勤務または研修に行くことになり、事実上の夫婦別居、分居両地となっているケース、第三は、本人が国内で汚職をしている時に配偶者子女を海外に住まわせ、汚職で得た自らの財産を少しずつ海外に移転し、汚職が発覚しそうになると急いで自らも海外に逃げるケースで、この第三のケースを最も厳しく取り締まる必要がある。5月、中国メディアは、信頼できる消息筋の話として、党中央紀律検査委員会は全党員に対し、党部長級以上の幹部は、海外に留学させている子女がいる場合、学業終了後1年以内に帰国させること、そうしない場合は本人の降格がありうること、また対象を2014年に副部長級以上、15年には正厅級官員以上へと拡大していくことを通告する予定と伝えている。

「老虎を打つ」は、水滸伝に出てくるトラに立ち向かう人物を連想させるが、これはもちろん大きな生命のリスクを伴うもので、指導層がこの用語を使用していることは、とりもなおさず、高級幹部の腐敗・汚職に本気で取り組むことに対する指導層の不安心理を表すものだとの見方もある。また、個々人の腐敗・汚職を追求することも必要だろうが、それ以上に、権力之籠(権力をかごに入れる)、すなわち、権力の集中・乱用が腐敗・汚職の根源にあり、それを防ぐため、権力を適切な法規範の下において管理するような制度を構築することがより重要だとのもっともな指摘が多い。本年も含め、毎年の両会(全人代と政治協商会議)で議論になる老話題だ。7月には中国としては初めて、8年前に批准した国連腐敗防止条約の実施状況の点検を受け入れる。また党(あるいは政府?)が、「腐敗の予防・取締り体系構築に向けての2013-17年作業計画」を策定中との話もある。老話題に新指導層がどのように対応していくのか、注目される。

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