賃金格差と物価格差

タイとCLMV諸国との違い

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「ジェトロセンサー」2013年5月号に、アジア主要33都市・地域の投資関連コスト比較が発表された。為替レートや集計対象の連続性の問題はあるが、製造業の一般工の月額基本給はタイ(バンコク)で345ドル、ベトナム(ホーチミン)で148ドル、ラオス(ビエンチャン)で132ドル、カンボジア(プノンペン)で74ドル、ミャンマー(ヤンゴン)で53ドルとなった。タイの賃金はミャンマーの6.5倍と、前年(4.2倍)から、一見、格差が広がった模様である。


「一見」とか「連続性の問題」と指摘しているのは、1年前の集計に比べた変動率が、タイ(+21%)、ベトナム(ホーチミン、+14%)、ラオス(+12%)のプラスに対し、カンボジア(-10%)とミャンマー(-22%)がマイナスとなったためである。JETROが2012年12月に発表した「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」に拠ると、賃金のベースアップ率(製造業:2011年度→2012年度)はカンボジアで+7.1%、ミャンマーで+15.4%である。両国の賃金水準が低下したと考えるのは早計だろう。


また、新年度のベースアップ率(製造業:2012年度→2013年度)は、タイで+7.1%、ベトナムで+19.2%、ラオスで+8.4%、カンボジアで+7.1%、ミャンマーで+15.4%と見込まれている。タイとミャンマーとの賃金格差は縮小に向かっているとも考えられよう。


いずれにせよ、これらの国々では賃金が増えることで、同時に物価が上がる可能性は高い。特に経済規模が相対的に小さいラオスやカンボジアでは、隣国のタイやベトナムの物価の変動が自国の物価に影響を与える傾向にある。インドシナ半島諸国(タイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー)の消費者物価上昇率について、2008年1月からの各国間の相関係数をみると、ラオス、カンボジアではともにタイ・ベトナムとの連動性が高い(図表1)。ラオスでは、輸入の大半をタイに依存しているため、ベトナムよりもタイとの相関が高く、カンボジアはベトナムとの相関が相対的に高い。ミャンマーは、他の4ヵ国のいずれとも相関は高くなく、他国からの影響は相対的に軽微だったと推察される。

図表1. タイとCLMV諸国のインフレ率の推移
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(出所)各国統計資料より、大和総研作成


ところで、仕事柄、タイとCLMV諸国との物価格差を尋ねられることがよくある。物価格差を測る有名な指標に、英国の経済専門誌「The Economist」が1986年から計算しているビックマック指数があるが、当該5ヵ国の中でマクドナルドが進出しているのはタイのみである。


コカ・コーラのような同一商品の価格差を調べることは、一つの有効な手法である。例えば、コカ・コーラ350mlサイズの小売価格は、タイとベトナムでは38セントに対し、ミャンマーでは47セントであった(調査対象時期:2012年11月~2013年1月)。ミャンマーの価格が高くなっているが、これは同国でコカ・コーラが生産されておらず、他国での生産コストに輸送費が上乗せされているためである。


そこで今回は、日系ビジネスマンが出張で使うことのあるホテルのラウンドリー価格を比較してみた(図表2)。ホテルでの洗濯であれば、タイでもCLMV諸国でも、ほぼ同じクオリティーで提供される価格であると考えたためである。また、図表3では、タイ(バンコク)を100として指数化し、ラウンドリーとドライクリーニングで、それぞれ平均値を算出した。これによると、サンプル数の多いラウンドリーでみると、ベトナムのホーチミンはバンコクの約7割、ハノイは同6割、ラオス、カンボジア、ミャンマーは同5割の水準となった。


JETROの賃金格差(ベトナム、ラオス:タイ比40%、カンボジア:同20%、ミャンマー:同15%)からみると、物価格差はそれほど大きくないと言えそうだ。

図表2. ホテルのクリーニング料金比較(ドル)

(注1)ホテル:A=ホリデーイン、B=コンラッド、C=ホテルニッコーサイゴン、D=レジェンド、E=メリアハノイ、F=ラオプラザ、G=インターコンチネンタル、H=トレーダーズ
(注2) 為替レートは2012年平均を基に計算
(出所)大和総研作成
図表3. タイ(バンコク)を100としたホテルのクリーニング料金
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(出所)大和総研作成

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