アジアンインサイト
中国新指導層の改革意欲を試す失業率統計

2013年1月11日

  • 常務理事 金森 俊樹

中国では、各種マクロ経済統計の正確性や信頼性の問題が、以前から議論の俎上に載ってきた。昨年の景気鈍化局面で、李克強副首相がかつて、自分(李)はGDP統計を信用しておらず、むしろ電力消費量、鉄道貨物量、人民元融資額といった統計を見ていると発言したと伝えられたことも記憶に新しい。そして、GDP統計以上に国民の生活に直結する指標として、しばしば問題視されてきたのが失業率統計であり、同統計を改善すべきとする声が、昨年後半以降、改めて高まっているように見受けられる。

(公表失業率統計)
中国当局が公表している失業率統計は、正式には「城鎮(都市および準都市)登記失業率」(国家統計局発表)と呼ばれているもので、これによると、失業率は過去10年間一貫して4.0-4.3%の範囲内で推移し、政府が毎年掲げる失業率目標値の「4.5-4.7%以内」を必ず達成している。リーマン・ショック後に景気が落ち込んだ2009年第2四半期でも4.3%までしか上昇しておらず、直近を見ても、連続9四半期、2012年第3四半期まで4.1%と全く変動していない。

(シンクタンク等の推計)
これに対し、中国のシンクタンクや大学では、別途失業率を推計する試みが行われてきている。例えば、中国社会科学院青皮書は2008年の都市部失業率を9.4%と推計(同年の統計局公表値は4.0%)、2012年12月には、西南財経大学中国家庭金融調査与研究中心が「中国城鎮失業報告」を発表、その中で、2011年都市部失業率は8%(うち男性8.1%、女性7.8%)、都市部労働力人口は3億4,624万人(2010年第6次人口普通調査、普査)であるので、失業者は約2,770万人と推計している(*)。

(*)西南財経大学は国家重点大学のひとつで、その家庭金融調査には定評がある。今回、同報告が指摘する失業率に関する主な特徴点は以下の通り。
  1. 地域別では、東部、中部、西部、各々6.9%、8.3%、14.1%、西部が際立って高い。
  2. 学歴との関係では逆U字型、初中等学校、高等学校修了者が各々11.2%、11.0%と高く、小学教育未満は4.9%、専門大学校卒が4.1%、大学卒以上は2.8%と総じて低い。
  3. 年齢との関係ではU字型、すなわち21-25歳9.6%、26-40歳5.5%前後、40歳以降上昇、46-50歳9.3%、51-55歳16.4%で、若年層と老年層で失業率が高い。
  4. 年齢階層毎に学歴別内訳を見ると、21-25歳では学歴とともに失業率が上昇しており(小学未満4.2%、初中8.1%、高等、専門大学校各11.3%、大学以上16.4%)、若年工場労働者が供給不足の反面、大学新卒の就職難が明らか。46-50歳は逆で、初中13%、高等11.9%、専門大学校2%、大卒以上0.9%で、受けた教育程度が低いほど失業率が高まる傾向にある。
  5. 51-55歳では、退職年齢との関係(女性の方が若くして退職する)で、特に男性、中でも都市戸籍の男性の失業率が高い。これには、1998-2001年にかけて行われた大量下岗(下岗浪潮)の影響が大(下岗は大半が都市戸籍。当時下岗の対象になったのは大半が35歳以上で、これらが現在50-60歳に達している)。
  6. 農村から都市に流入した人口の失業率は総じて低い。多くの若年層はすでに都市部に流入する一方、老年層が農村に留まっている傾向にある。これは、将来的に農村から都市への労働人口供給が逼迫するおそれがあることを示している。

当局自ら、実態は公表失業率統計と大きく異なることを認めた例も伝えられている。温家宝首相は、2010年3月の発展ハイレベル(高峰)論壇の席上で、失業者総数は2億人(農村を含めての数値と思われる)、生産労働力人口(60歳以上人口13.3%、0-14歳人口16.6%を除くと、13億人×70%=9億人)比22%にのぼると言及している(2012年8月2日付和訊新聞)。その他学者らの推計も含めると、近年の失業率は、およそ8-20%の幅で推計されているようである。

(調査失業率統計の試み)
こうした状況を踏まえ、中国当局も、2011年からサンプル調査に基づく城鎮調査失業率を試行、第12次5カ年計画期間中にも現行の失業率統計に替えて公表することを検討し始めたと伝えられるが、なお公表に到っていない。2012年3月、政治協商委員との会合で、国家統計局長は、ジニ係数を発表しなくなった理由とともに、調査失業率をなお公表しない理由を問われ、公表が義務付けられている現行の失業率と調査失業率との乖離は次第に縮小傾向にあると発言したとされるが(2012年3月7日付新華網)、その発言趣旨は必ずしもよくわからない。同年9月20日、統計の日(統計開放日)の活動の中では、同局長は、一般的にさらに統計制度・方法について改革を進めていくとし、その一環で調査失業率統計についても積極的に研究し実施していくと発言したとされる(9月21日付統計局ウェブサイト)。

(公表城鎮登記失業率の問題点)

  1. 都市戸籍を有している者、なかでも男性は16-50歳、女性は16-45歳(それ以上は自発的に引退した者と見なされる)のみが対象となっており、農村から都市に流入しているが、都市戸籍を有しないものは統計の対象外になっていること。また、国有企業で実態上仕事がない状態になっている者(下岗)は、失業には含まれていないなど、総じて対象がきわめて限定的である。
  2. 失業登記を少なくするための操作の痕跡が、明らかに見られると言われていること。例えば、新卒大学生は失業状態が6ヶ月を過ぎた時点で、ようやく失業登記の資格が生じるようにされていること、地方政府の中には、さらに登記にあたっての条件・指標を細かく設定し、登記を抑制していること、原戸籍の場所でしか登記は受け付けられないようになっていること等で、その結果、登記をしていない者、登記する資格がない者はすべて就業者と見なされている(2012年1月16日付才団網・職業指導)。

こうした失業率統計の問題について、そもそも中国における失業の定義は、旧マルクス主義の無産階級工場労働者に起源があり、農村は念頭にないという歴史的側面があると指摘する向きもある(2012年10月25日付華尔街見聞)。

言うまでもなく、経済統計が正確に実態を反映したものであることは、経済政策が適切に企画・運営されることの前提条件である。特に失業率統計は、経済がどの程度落ち込んで(あるいは過熱して)いるのか、それによってどの程度、景気を刺激(あるいは抑制)すべきかを検討する際の重要な指標のひとつとなるべきものだ。おそらく現状、中国当局自身、現行失業率統計の問題点を十分認識し、そうした経済運営の指標として失業率統計は全く見ていないということなのであろう。しかし特に中国では失業問題は、経済問題というよりむしろ社会問題としての側面が強い。実態を全く反映せず低水準に留まったままの失業率を公表し続けることは、結局、一般庶民の当局への不信感を増大させ、当局が重視する社会安定の確保にもマイナスの影響を及ぼす。ひとつの統計の問題ではあるが、失業率統計の改革がどう進められるのか、具体的には調査統計の公表がどのような形でいかなるタイミングで行われることになるのか、おおげさに言えば、新指導層の経済改革への意欲を見る試金石かもしれない。

 

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