アジアンインサイト
中国経済を見る戦略キーワード(3) -人民元相場急上昇-

2012年12月7日

  • 常務理事 金森 俊樹

人民元相場上昇が外黄牛を直撃、弱まる‘単辺的’な‘看空’‘看多’

2011年まで常に上昇圧力がかかり続けてきた人民元相場は、2012年3月頃から一転して元安局面となり、人民銀行が設定する中心レートからの変動幅±1%の元安下限まで下がる(跌停)局面も見られたが、9月頃から再び急上昇し、元高上限にたびたび張り付き(漲停)、年末にかけ最高値を更新している。上海の外灘付近には、なお外国為替(外汇)の闇両替人(黄牛、元来は中国でもっとも一般的な牛を指すが、チケット等を闇市場で売るいわゆる‘ダフ屋’を意味することが多い)が散見されるが、9月以降の急激な人民元相場の上昇で、銀行より有利な相場を顧客に提示して人民元を購入し外貨を売ることが難しくなって、外汇黄牛が商売に苦慮しているという(2012年10月21日付中財網)。

人民元相場急上昇の背景は、占尽天時地利人和だとする声がある(11月2日付戦略観察)。由来は、孟子の「天時不如地利、地利不如人和(天のもたらす幸運は地勢の有利には及ばず、地勢の有利は人心の和に及ばない)」という、人心の和の重要性を説いた兵法から来ているが、ここでは、様々な要因があって一言では説明できない(言い換えれば、よくわからない)ということだろう。米国を始めとする先進国が、金利をさらに低下させる余地がない中での一層の金融の量的緩和QE(量化寛松)という非伝統的金融政策(非常規貨幣政策)を進める一方、人民銀行は金利を下げて流動性を調節するという政策手段(利率杠杆、金利を梃子、レバーにする)ではなく、いわゆるリバースレポ(逆回购)方式で資金供給を行ってきたため、内外金利差が維持され、高金利通貨である人民元に資金が集まったことが大きいとの見方が多い(2012年10月30日付経済参考報等)。

社会科学院金融研究所の研究員によれば、中国政府の立場からすると、為替政策上重視される観点は3つある。第一は、言うまでもなく輸出への影響、第二は、特にグローバル金融危機以降、国際的にホットマネー(熱銭)が国際金融市場に風や波を引き起こす(興風作浪)不安定要因になっている状況下での金融のシステミックリスク(系統性金融風険)への影響、第三は国際政治上の交渉ゲーム(国際政治談判的博弈)、特に米国との関係をどう考えるかという観点である(2012年6月中国農村金融)。9月以降のやや急激な元相場上昇の説明要因として、中国外でもよく指摘されるのは、G20や米国大統領選といった政治日程だが、中国側からすると、そうした政治日程を控えたタイミングで、中国当局が人民元相場の上昇を容認する傾向が見られるのは、米国から、人民元相場について‘無責任にあれやこれや言われる’(説三道四)ことを阻止するためということになる。人民銀行の立場からすると、永遠のトライアングル(永恒三角形)、すなわち国際経済学で有名な国際金融のトリレンマに直面する中で、中央銀行として最終的に選択するのは金融政策の独立性と資本の自由な移動、したがって為替相場はより弾力化することが望ましい方向となる(上記、社会科学院金融研究所研究員、および中国市場関係者、11月28日付国際金融報)。人民銀行が、中国政府の中で改革推進派と呼ばれることが多いゆえんであろう。  

ただ、このところの人民元相場上昇は短期的なもので、次第に上昇余地(昇値空間)はなくなりつつあるとの見方が、中国内では支配的だ(2012年12月7日コラム)。市場関係者は、人民元の短期的な上昇を上漲、長期的な上昇傾向を昇値と表して用語を使い分けており、10月以降の急上昇はと表現されるべきものだとの指摘もある(11月27日付経済参考報)。また以前のように、投資家が市場で一方的(単辺的)な相場上昇期待(看多)あるいは下落期待(看空)の下で、人民元を買い進む(做多)あるいは逆に売り進む(做空)といった市場行為をとることが少なくなってきている。そのため外貨を保有している者は、これまで以上に相場の双方向への変動を期待することになり、当面、現在の相場で急いで外貨を市場に出そうとしない。そうなると当面、外汇黄牛は手持ち外貨が不足気味となり、しかもその対人民元相場は安いという二重苦にさらされることになるというわけである。


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