バイオマス通信 エタノールの原料転換と日本のバイオマス戦略

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エネルギー安全保障としてバイオエタノールの生産を推進している自動車大国米国では、エネルギー政策法(Energy Policy Act 2005)の中に、原料別バイオエタノールのガソリンへの混合使用義務量を定めた再生可能燃料基準(RFS)を設けている。米国のバイオエタノールは、主にトウモロコシ澱粉を糖化し、エタノール発酵させ、蒸留・脱水して作られるが、その生産能力が、150億ガロンが上限のトウモロコシ澱粉由来のエタノールの使用義務量に近づいたためである。したがって、2022年の使用義務量360億ガロン(1ガロン3.8リットルとして約1億3700万キロリットル、ちなみに日本の平成20年度の自動車ガソリン消費量は概ね5800万キロリットルであるから、単純比較でその2.3倍以上の使用義務を定めている)の残りの大半(160億ガロン)は、第2世代の原料とされる非食用の茎や木くずなどセルロースを原料とするバイオエタノールプラントが中心を担うことになる。既に、化学大手のデュポンは、トウモロコシの茎を原料に商業生産に向け準備を進めている。ただ、セルロースから糖質へ変換し発酵させるプロセスは、セルロース分解や酵素の高価格から、澱粉からの現プロセスに比べ、コストが高いという問題があり、その解決にやや時間がかかる。そこで、注目されているのがトウモロコシやサトウキビと異なり食糧とバッティングしない糖質のスィートソルガム(イネ科コウリャンの一種)と澱粉質のキャッサバ(イモ類)である。これは、非食用だがセルロース由来ではないので1.5世代原料ともされる。


特にスィートソルガムは、米国農務省の研究誌(Agricultural Research, September 2012)に、「[1]干ばつに対する耐性が強い、[2]多様な環境に適応する、[3]窒素肥料を大量に要求しない、[4]大量のバイオマス(生物量)を生成する、という強みを持ち、米国南東部の綿、ピーナッツのローテーション用のエネルギー作物として将来性がある」と報じられ、品種改良など関連各社がその研究に力を入れる方向にある。


 


一方、米国と並ぶ自動車大国でかつ巨大な潜在市場を持つ中国では、バイオエタノールの生産はほぼ予定通りだが、原料調達は危機的な状況にある。全米再生可能燃料協会(RFA).によれば、2011年のバイオエタノールの国別生産は、首位の米国が139億ガロン、2位が新興国ブラジルで55.7億ガロン、中国は世界3位だが5.5億ガロンと、米国の二十五分の一、ブラジルの十分の一、EUと比べても半分にも達しない。中国のバイオエタノールの生産については、大和総研エマージング・マーケット・ニュースレター(2011年6月29日レポート)に詳しいが、危機的状況は原料のトウモロコシの安定調達が出来ず、新たな原料が見出せなかったことによる。中国国家能源局(国家エネルギー局)作成のエネルギーの12次5ヶ年計画(2011~2015)では、バイオエタノール生産の具体的数値目標は掲げず、セルロースの第2世代原料の実用化とともに、1.5世代の澱粉質原料としてキャッサバ等、糖質原料としてスィートソルガム(甘高粱)を指定し実用化を推進するとしている。また、同計画には、バイオ、農業機械、プラント、発酵の国内技術基盤底上げも記載されており、米国との技術的ギャップを埋めることも課題と思われる。今後、中国では1.5世代原料の生産確保にメドを付け、原料に対応したプラントの建設や旧プラントの改修を行うことが急務となろう。1.5世代原料のバイオエタノールプラントが中国で確立すると、スィートソルガム等は新しいエネルギー作物として普及し、同様の問題を抱えるインドなどアジアの新興国のバイオエタノール生産増加に与える影響は大きいと思われる。


中国は、輸送部門の急拡大により、ガソリンの原料である石油の輸入量も急増、1996年に輸入国に転じて以降、はや世界二位の輸入国となっている。自動車等の潜在市場を考えると、中国の石油資源の確保は自国のエネルギー安全保障である。しかし、一次エネルギーの石油に対する依存度が大きい日本等にとっては脅威である。米国が中東石油への依存を減らしている中で、中国の輸送部門のエネルギー多様化の促進は、他人事ではなく日本自身のエネルギー安全保障でもあろう。日本にはバイオエタノールの商業プラントは一基もない。しかし、バイオエタノールの生産技術基盤は十分ある。バイオテクノロジー、農業技術、プラントでは世界トップ水準にある。日本の技術と人により、中国をはじめとするアジア各国の再生可能エネルギー政策の推進に貢献し、ウィンウィンの関係を築ければ、バイオマス分野でも大きな市場と日本の自動車関連産業の持続的発展への寄与が期待できよう。


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