—地球規模で高まる金融リテラシー向上に向けた動き— マイクロファイナンスビジネス拡大の先に何を見据えるか

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いささか大げさなタイトルで恐縮ですが、先進国のみならず金融制度の整っていない発展途上国で金融リテラシーの向上が大きな政策課題となっていることを申し上げたいと思います。


金融リテラシーとは、金融取引や商品について理解した上で、適切に活用する能力ということです。その向上に必要な知識・教養分野としては、[1]経済、[2]金融、[3]投資ですが、これらの知識を持つだけでなく、それを実際に自ら活用してさらに実践力が備わることでより能力が高まると言えます。


先進国で金融リテラシー向上を政策課題として取り上げられる背景として、金融のグローバル化や金融商品の多様化に伴ってより複雑化する中、金融知識を保有していたと思っていた人達でも実はきちんとリスクを把握できていなかったことがあります。2006年OECDの調査では、金融市場が早くから成熟していた米国や日本でも、多くの投資家が投資・運用の知識を有していないことが明らかになりました。さらに2008年のサブプライムローンに端を発した金融危機から多重債務者や自己破産が増加し、個人の資産形成に大きな影響を与えることとなりました。


一方金融制度の整っていない発展途上国において注目されているマイクロファイナンスでも近年金融リテラシーの向上が大きな政策課題となってきています。2010年トロントで開催されたG20において金融包摂(ファイナンシャルインクルージョン)が政策課題に挙げられ、その中でもマイクロファイナンスの役割に大きな期待がかけられるようになりました。


マイクロファイナンスは、1983年、のちにノーベル平和賞を受賞したユーナス氏が設立したグラミン銀行によって、バングラデッシュの地方の村で始めたグループ貸付といわれる連帯保証による融資がその端緒であるといわれています。この方式での融資はその返済率がきわめて良好であることから貧困層向けビジネスの金融版としてさらなる参入をもたらしました。現在世界に3500ものマイクロファイナンス金融機関があるといわれています。さらに先進国の投資家は新たな投資対象として注目するに至りました。これはインパクトインベストメントと呼ばれる分野です。


しかしマイクロファイナンスの利用者の金融知識のレベルは世界的なビジネス規模の拡大に追い付かず、様々な問題を引き起こしているのも事実です。2010年10月にはインド・アンドラ・プラデシュ州で多重債務や強引な資金回収が原因とされる集団自殺事件が発生しました。


強引な資金回収方法とともに貸し込みも問題とされました。マイクロファイナンス会社のスタッフに説得され必要以上にお金を借り、借金が1,000ドル以上に膨らみ、借金を返済するように脅迫された女性達の話が地元紙に報道されました。さらに借手の多くは事業のためではなく、テレビ購入、医療費、農業作物不作のダメージの軽減にお金を使ったということです。


この事件を受け、世界の貧困層の金融問題に取り組んでいる独立系の政策・調査センターである貧困層支援協議グループ(CGAP)は「アンドラ・プラデシュ2010:インドにおけるマイクロファイナンス危機の世界的影響」と題する報告書を発表しました。これによると、急速な成長は信用規律を緩めることになり、融資額の不健全な増加を招き、融資引き受け基準が緩んで過度に融資が膨らんでしまうと警告しました。一方現地の市場が成熟するにつれ、マイクロファイナンスの供与モデルも、健全な発展や、貧しい人々が必要とする商品やサービスの発展をサポートするように変わらなければならないとも述べています。


先進国における金融危機そして途上国におけるマイクロファイナンス危機以降、金融の社会のおけるあり方として社会的責任金融(Social Responsible Finance)についての活発な議論が展開されています。同時に利用者である個人のレベルでの金融リテラシーの向上の必要性が議論されていることにも注目する必要があると思います。


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