アジアにおけるバイオリファイナリーの展望

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再生可能資源であるバイオマス(※1)からのエネルギー、化学品の生産は「バイオリファイナリー」と呼ばれ、地球温暖化問題に対する処方箋のひとつとして注目されている。バイオマスを原料とするバイオプラスチックは、石油を原料とする従来型プラスチックと比べて環境負荷の低い素材として、先進国を中心に開発が進められてきた。バイオプラスチックの原料作物としては、サトウキビ、トウモロコシ、キャッサバ、大豆、オイルパームなどが挙げられ、製造の形態によって、[1]化学合成系、[2]微生物産生系、[3]天然物利用系に大別される(図表1)。


図表1. バイオプラスチックの分類と工程例

バイオプラスチックの分類と工程例

出所:各種資料に基づきDIR作成
注1)本図表では、各製造形態のうち、代表例のみを簡素化して表示した。



当初は、プラスチック廃棄物問題への対処として、最終的に自然環境下で微生物の働きにより分解される機能を重視した製品が主流であったが、最近はバイオマスを原料としていることを掲げた環境への配慮を重視した製品として位置付けられている。オランダ・ユトレヒト大学の研究グループの報告(※2)によると、世界におけるバイオマスプラスチックの生産量は、2007年の36万トンから2020年には、年間150万~440万トンに達すると予測されている。


現時点では、バイオプラスチックには、石油由来の製品と比べ高コストであること、原料作物が食料と競合しやすいなどの課題がある。このような課題への対応として、先進諸国では研究開発が継続して取り組まれており、例えば、化学合成系では、食料と競合しない木材や廃棄物を原料とする可能性、微生物産生系では大豆油に比べて低価格のパーム油からの製造などが模索されている。


ところで、アジア地域は元来バイオマス賦存量(※3)の高い地域として位置付けられていることから、バイオプラスチック産業のポテンシャルは比較的高いと思われる。アジアの開発途上国の中では、タイにおいて官民を挙げた取組みが進められている。タイでは2003年10月にNational Innovation Agency(国家イノベーション庁)が設立され、農業部門と工業部門を連結させる戦略産業として、バイオプラスチック産業が位置づけられた。このような背景の下、2007年5月にはタイバイオプラスチック工業協会(TBIA)が組織されるに至った。2012年11月現在、TBIAには、33社が正会員として加盟し、キャッサバでんぷん由来の生分解性プラスチックなどが生産されている。タイには、キャッサバ、サトウキビ、コメなどの豊富なバイオマス資源が存在しているのに加え、でんぷん、製糖、プラスチックなど、そもそもバイオプラスチックに関連する産業が立地しているアドバンテージがあったと言えよう。


他方、タイ固有の問題として、周辺国に比べて貧富の格差が大きい社会であることが指摘できる(図表2)。実際、都市住民と農村住民との経済格差問題を背景に、近年のタイは政治的に不安定な状況にある。したがって、タイ政府のバイオプラスチック産業育成策は、農業部門を工業部門と連結させることで付加価値を高め、農業部門の底上げを図り、経済格差解消の糸口となる取組みとして位置付けられている側面もあろう。農業部門への適正な配分がなされ、持続的なバイオリファイナリーの確立につながることを期待したい。


図表2 アセアン諸国のジニ係数

図表2 アセアン諸国のジニ係数

出所:米国中央情報局(CIA)“The World Factbook”
注1)ジニ係数とは、貧富の差(所得分配の不平等さ)を測る指標。0から1までの値で表示される場合が多いが、CIAでは100倍した数値を公表しているため、本表では出所に従った。数値が大きければ大きいほど、格差が大きいことを意味する。
注2)アセアン加盟国のうち、ミャンマーおよびブルネイはデータ欠損のため非表示。


(※1) 化石資源を除いた生物由来の有機性資源で再生可能なもの。様々な種類があり、その発生場所も多岐にわたる。近年、トウモロコシ、サトウキビ、キャッサバなどの「資源作物」がバイオマス原料として利用されている。日本国内では、稲わらや間伐材などの「未利用バイオマス」、家畜の排せつ物や生ごみなどの「廃棄物系バイオマス」の利用が実証的に行われている。
(※2)Li Shen, Juliane Haufe, Martin K. Patel (2009) "Product overview and market projection of emerging bio-based plastics
(※3)賦存量とは、理論的に導き出される潜在的な資源量を意味する。


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