アジアンインサイト
経済減速で顕在化する中国財政の問題

2012年10月22日

  • 常務理事 金森 俊樹
(高い伸びを示す税外収入)
2012年に入り、近年高い伸びを示してきた中国の財政収入動向に変化が見られる。中国の本年3四半期(1-9月)の全国税収は累計で約7.74兆元(対前年同期比8.6%増)と、景気のスローダウンを受けて、その伸びは大きく鈍化している(昨年1-9月の前年同期比は27.4%増)。他方で、公共財政収入の中の非税収入と呼ばれる項目が高い伸びを示している。同期間の全国の非税収入は1.32兆元で、前年同期比27.1%の伸び、うち中央は2,834億元(24.6%増)、地方が1兆344億元(27.8%増)となっており、特に地方の非税収入の伸びが著しく、幾つかの地方政府では70%以上や2倍といった伸びも見られるようだ(9月5日付中国網)。直近の8、9月単月を見ると、全国ベースの公共財政収入が各々、前年同期比4.2%、11.9%の低い伸び、なかでも中央分が▼6.7%、▼2.4%と連続マイナスを記録する中で、地方の非税収入のみ31.6%、40.0%の高い伸びだ。こうした動きを受け、中国国内で、従来から歳入面での構造問題とされてきた「乱収費」や「過頭税」の問題が改めて提起されている。

(乱収費で税収落ち込みを穴埋め)
中国の税外収入は、具体的には、公共サービス料金収入、国有資産使用料金収入、国有資本の投資収益、宝くじ収益金、各種の罰則金収入等であるが、財政部の発表している公共財政収入にある非税収入(行政事業性収費、罰金収入等)と、政府性基金収入(地方歳入が大半で、中でも大部分は国有土地使用権譲渡収入)がこれに該当すると見られる。2011年全国公共財政決算によると、税収入が約9兆元に対し、非税収入は1.4兆元であるが、これに政府性基金収入4.1兆元を加えると約5.5兆元、歳入総額14.5兆元のうち40%近くは税以外の収入に依存する構図になっている。
 
本年1-9月の政府性基金収入実績を見ると2.39兆元(対前年同期比16.8%減)、うち中央2,377億元(12.9%増)、地方2兆1,517億元(19.2%減)で、地方の減収はもっぱら国有土地使用権譲渡収入の減少による。地方政府が、全般的な景気の鈍化、不動産市場の過熱抑制による税収・国有土地使用権譲渡収入の伸び悩みを、それ以外の非税収入の増加で穴埋めしようとする構図が浮かび上がる。その実態は必ずしも明らかでないが、中国内の報道によると、基本的に、様々な名目での行政費用徴収と各種罰則金を不当に徴収するという、いわゆる「過頭(行き過ぎた)税」、「乱収費」である。たとえば、多くの中小企業が存在する温州市中小企業協会は、「民間企業に課せられる様々な行政費用が30以上の政府部門にわたって70項目以上に及んでおり、こうした費用の大部分は廃止されるべき」と主張、また身近な例として、高速道路上で、交通違反の罰金を払うため、これほど長蛇の列ができているのを見たことがない、駐車区域内に駐車しているのに法外な駐車違反の罰金をとられた等々の声が多数伝えられている。さらには、税収を確保するため、さすがに最近は法定税率を超える税率で課税するといったことは少なくなっているようだが、法定納税時期より先に徴税する、資格要件を厳しくして優遇税率が受けられないようにする(特にハイテク関連企業)といった事例も多いようだ(8月30日付第一財経日報、9月14日付経済参考報等)。
 
2012年1-9月歳入動向

(中成長への移行で歳入構造の見直しが課題に)
以上のような最近の歳入をめぐる動きは、一義的には、必ずしも法律・規則に則って徴税が行われていないという中国の行政システム上の問題が依然として改善されていないこと、および地方歳入が不動産関連に依存し過ぎ、安定的な財源を有していないという根本的問題を示すものだが、それに加え、以下の点に留意する必要があろう。
 
第一に、景気対策としての租税政策の効果が減殺されることである。景気鈍化に対応して、企業への踏み込んだ減税措置を行うべきとの専門家の指摘が出てきており、当局も検討している模様であるが、仮に大胆な企業減税が導入されても、結局、実質的には企業の負担は全体としてそれほど軽減されないおそれがあり、そうすると、減税による景気刺激効果はあまり出てこないということになる。
 
第二に、歴史的に見ると、現在の中国の税制は、1994年の分税改革を基礎としているが、当時の税捕捉率は50%程度にすぎず(人民大学財政金融学院研究チーム「中国税収高速増長的源泉」中国社会科学2011年第2期)、そのため以後20年余にわたり、歳入確保のため、政府が様々な名目で税外収入を設けてきたという経緯がある(2009年時点で、教育、衛生、科学技術、民生等の分野で800以上の収入項目、9月21日付経済観察報)。歳入確保という点では、税収が鈍化する現局面で、皮肉にも、こうした「裁量的」な財源が再び有効に働いているわけだが、下記に述べるように、おそらく以前よりはるかに税捕捉率が向上してきている現状では、そうした意味での存在根拠は薄れてきている。
 
第三に、より重要なことは、しばらく続いてきた20%を超えるような高い税収伸びは、もはや期待できない時期を迎えたとの認識が、中国当局にも出始めており、これは、経済全体が高成長から中成長に移行しつつあるとの認識が強まっていることの反映でもあるということだ。中国の税収弾性値(税収の伸び率/経済成長率)は、1986-92年の0.43という極めて低い水準から、分税改革後1995-2009年1.39にまで上昇しているが、この大きな要因のひとつは、分税改革後、税の捕捉率を高めた(高める大きな余地があった)ことにある。しかし今後その余地は縮小してくると予想され、そうなれば、成長率の鈍化と相まって、これまでのような高い税収の伸びは期待できないことになる。それに対し、これまでのように安易に「乱収費」や「過頭税」に頼ることなく、どう歳入構造を再構築していくか? 近年、むしろ政府の歳入が増え過ぎ、「国が先に豊かになる」(鄧小平の「先富起来」をもじったもの)ことが問題とされてきたが、異なる局面を迎えつつあるということかもしれない。


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