内需主導型の経済構造を目指す中国

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投資、輸出主導型の経済から内需主導型の経済への構造変化を目指す中国にあって、各地で最低賃金の大幅な引き上げが相次いでいる。中国政府は、社会不安の激化を怖れ、その最重点政策を所得格差是正による「和諧社会」の実現においている。旺盛な消費を支える厚い中間所得層を作るべく、中央政府は、2015年までの5ヵ年計画で最低賃金を毎年13%以上引き上げる方針である。2010年までの前の5ヵ年計画で、最低賃金は年平均12.5%上昇した。直近の中国では労働力不足が深刻化し、工場労働者の不足が沿海部に留まらず、内陸部にも波及している。無尽蔵と思われた農村部の労働力にも過剰感が消えつつある。進出日系企業の間で中国での生産比率を引き下げ、生産拠点をより人件費の安い国・地域にシフトする動きが加速している。

中国国家統計局によると、2011年の総人口に占める労働力人口(15-64歳)の割合が74.4%と10年より0.1ポイント低下に転じている。労働力人口そのものも2013年をピークに減少に転ずると見られている。危機感を持つ中国では最近、沿海部の企業が工場の自動化投資を加速、日本企業の関連製品への需要が高まっている。

製造業の固定費負担が増えるなか、外国人の社会保険料の負担も新たに加わっている。2011年10月15日に「中国において就業する外国人の社会保険加入についての暫定弁法」が施行された。徴収主体は地方政府で、保険料算出基準などの詳細も地方政府によって決める。これまでのところ、対応にバラツキがある。北京のように先行して既に実施されているところもあるが、大半の地方政府は、先行して保険料徴収に動けば当該地域への外資の投資に影響を与えるとして様子見の状態である。実施に時間差があるものの、いずれすべての地方政府で実施されるだろう。駐在員を伴う進出企業にとってコスト負担増になる。

外資系企業の投資ガイドラインである「外商投資産業指標目録」も改定された。2007年以来の改定で、改訂版は2012年1月30日から施行されている。自動車製造が生産能力の過剰もあってか奨励業種から除外されており、外資の新規参入が難しくなる。一方、これまで制限業種とされてきた医療機関、金融リースを容認業種に変更した。中国内にあって医療機関の不足が顕在化しており、外資導入によって整備を企図したものと思われる。中国にとって新しいステージにふさわしい産業の外資企業の呼び込みの方針が打ち出されている。今後の外資企業の進出計画にも影響が及ぶだろう。

中国はこれまでの高度成長期から安定成長期への移行期に差し掛かっている。中国が改革開放に大きく体制を変換した1978年から2010年までの33年間の平均成長率は実に10%と高率を記録している。3月の全国人民代表大会の政府活動報告で、政府は、2012年の経済成長率の目標を昨年までの8%から7.5%に引き下げるとした。雇用維持のために必要とされてきた「8%成長」の看板を8年ぶりに下ろした。豊富だった農村部の余剰労働力が枯渇し始め、高い経済成長で新たな雇用を作り出す必要が薄れてきた面がある。すでに2011年からの第12次5ヵ年計画の目標を7.0%に引き下げている。政府直属のシンクタンクである国務院発展研究センターの試算では、中国の潜在成長率は2020年までに7%まで下がるという。

これまで中国の成長を支えてきたのは政府、国有企業、政府系企業といった公的セクターによる大規模な投資だった。リーマンショック後の地方政府を巻き込んだ財政の大盤振る舞いによる経済成長の引き上げの姿がその典型である。今後の成長は、消費・サービス業を担う民間企業の育成・発展による構造改革の帰趨がカギを握る。民間企業を育成するには、円滑な資金調達は重要である。金融・資本市場における資金供給においても、これまでのような公的セクター優先を是正し、民間セクターに資金が流れるようにする必要がある。

中国に進出している日本企業は、人件費増などの負担を軽減するために、ASEAN地域を中心に生産拠点の分散化を図る一方で、中国を始め各国で台頭している新中間層を、ユーザーとしていかに取り込んでいくかが成否を分けることになろう。それには各国によって異なる需要に応えていかなければならない。


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