アジアンインサイト
日中アニメ業界の比較研究

2012年4月5日

  • 大和総研(上海)諮詢有限公司 陳 志偉
中国のアニメ産業の発展は1980年代末に、とりわけ88~90年において、ピークを迎え、黄金時期とも言われたが、近年、海外とりわけ日本から相次いで輸入された作品に圧倒され、国産アニメ産業が徐々に衰退過程に入ってきたといっても過言ではない。では、日本のアニメの人気度と比べて、なぜ中国の作品が好まれないだろうか、以下五つの面において解析したい。


一、発展沿革
中国のアニメ産業は戦後一時迅速に発展していたが、現代に入って一部技術面での変化以外大きな革新がなかった。一方、日本はデザイン構想や商業化の面等において大きな革新があり、アニメ産業はGDPの10%以上を占めるようになり、国民の柱の産業にもなった。

中国 日本
成長段階(1957-1966)  アニメ映画に係るデザイン数が少しずつ増えてきた 1917-1945 海外輸入作品を題材にするのが多かった。後期は戦争関連の作品がメイン
1957-1966 様々なアニメ映画が放送され、芸術性や民族風情の込めたものも多く現れてきた 1945-1974 東映は1956年に日本動画社を吸収合併しアニメスタジオ「東映動画」を発足。1961年には手塚治虫が「虫プロダクション」を発足させた。虫プロダクションは日本で最初の本格的連続テレビアニメ『鉄腕アトム』(1963年)とそれに付随する日本初のテレビアニメからの長編アニメ映画『鉄腕アトム 宇宙の勇者』(1964年)を製作した。テレビアニメも同時期に発足した
1958-1960 水墨アニメ映画が初製作された
1961-1964 初の大作アニメ映画『大閙天宮』が放送された
1966-1976 文化大革命がアニメ産業の発展に重大な衝撃を与えた
1977 再びアニメ製作が開始 1974-1980 宇宙戦艦ヤマトが放送され、今では基本常識となった「ワープ」を初めて持ち込み、そのクオリティーの高さで、多くの者に絶大なる評価を受け、大成功を収め社会現象となった。この成功でアニメが一般社会に認められることとなり、この後に日本でアニメーション映画が多数作られるきっかけにもなった。
1979 建国30周年に長編大作『哪叱閙海』が放送された。カラーも想像力も豊富な作品とも言われ、海外へも多く輸出された
1980~1990 アニメのことを正式に“動画”と呼ぶようになった(以前は“美術映画”と言われていたが)。この期間に『三人和尚』、『黒猫警長』、『瓢箪兄弟』等の新作があった  1980~1990 東映まんがまつりに代表される、テレビアニメでの人気作の新作を映画にし、数本立てで上映する形態が恒常化した。これらの作品はアニメ愛好者よりは家族を狙った作品が多い
1990~現在 輸入アニメが台頭し、国内勢は新しい題材が少ない中、海外作品を過度に模倣した関係で、逆にシェアが失われた。  1990~2000 アニメーション映画は、本数は増加したが、高年齢層を狙った作品は少なく、児童・家族向けの作品が多かった。アニメ映画は観客の層が偏り、資本の回収が困難なことが多く、また、高年齢層のアニメ愛好者は劇場に足を運ぶよりは自宅でビデオで繰り返し見るほうを好んだため、製作側が自然とテレビアニメやOVAを重点に置き始めたためだと考えられる。また、テレビアニメの映画化が非常に多いのがこの時代の特徴である
2000~現在 アニメなしでは日本映画は成り立たないとまで言われるほど、アニメ作品の比重が増加した。またこれらアニメ映画のほとんどは『ポケットモンスター』に代表されるテレビアニメ番組の新作を映画にしたものである。 教育の現場では比較的アニメは多用される


二、意識観念及び題材
中国のアニメについて、なかなか革新的なものが見られなかった理由の一つは人々のアニメに対する観念がまだ70、80年代のレベルに留まっており、アニメは子供しか見ないものだと見なされていることである。また、アニメ番組も子供向け番組にカテゴライズされ、より広範なターゲット層までに普及できなかった。一方、日本のアニメのターゲット層は概ね12~20歳の青少年である。例えば、名作『エヴァンゲリオン』は完全に年齢層の高い視聴者向けの作品であり、その内容は15歳以下の少年ではなかなか理解できないであろう。

中国のアニメの題材の殆どは古い神話や伝説等であり、その固定モデルからなかなか踏み出せなかった。一方、日本のアニメは題材において常に工夫していた。例えば、『スラムダンク』という作品は高校バスケットボールを題材にした日本の少年漫画作品であり、学生の心理をうまく描き出せた作品だと評価されている。ちなみに、『スラムダンク』は中国でも放送され、視聴者から大きな反響があり、大好評となった。


三、教育性、経済性及び芸術性
中国のアニメは教育を目的にしているのが殆どである。また、製作側も“××美術製作会社”や“××テレビ美術部”等であり、国からの資金補助が得られるので、その作品が経済性よりも公益性に傾きやすく、青少年視聴者に好まれない。

一方、日本のアニメの着眼点は経済性であり、製作会社も自主制作(補助金無し)であるため、作品は当然経済性を求めなければならない。視聴率を高めるようにまずは視聴者の心理を捉えなければならないし、内容にしても常に革新を求めなければならない。

アニメも芸術であり、一アニメ製作者として、まず芸術を生み出そうとする自覚を持つべきであろう。教育そのものも、単に常識を伝達するのではなく、芸術を通じて子供に自ら理解してもらうのも良い方法である。


四、製作技術及びキャラクター設計
製作技術では中国も大きな進歩があり、日本と肩を並べるが、キャラクター設計に関しては、大きな差がある。

中国のアニメキャラクターはあまり鮮明的な個性を持っていない。多くの場合、画面上にあるキャラクターは独立的に存在しているもので、人物の表情、目つき及び性格が脚本とうまく合っていないため、視聴者にとって視覚効果を大きく落としてしまう。

一方、日本のアニメキャラクターは表情の処理について非常に特徴的であり、眉毛、目尻及び口元の精細な変化を通じてその人物の表情及び性格を徹底的に現わすことができる。


五、吹替え及び宣伝
音声の吹き替えについて、中国のアニメは吹き替えの音声がキャラクターその物の年齢と明らかに合わなかったり、キャラクターの性格をはっきり現わせなかったりするケースが多い。一方、日本は声優という専門的に吹き替えに従事する役がある。声優は多くの場合キャラクターより年上だが、性格や声などキャラクターとぴったり一致させることができる。また、多くの声優が特定のキャラクターの吹き替えの専属配役として知られている。

宣伝については、中国の場合には殆ど見られなかった。CDやDVDの形にして販売するのが精一杯である。一方、日本の宣伝方法は多種多様である。まずは新作の予告編(一般的には45秒の寸劇)で宣伝する。次に、街や地下鉄の中でも大量のポスター広告を出す。人気の作品であれば、人形、ランチボックス、メガネフレーム、テレフォンカード、カレンダー、タオル、ハンカチ、キーホルダー、ミュージック時計、アルバム、ワイシャツ、手提げ袋、封筒、手紙、ティッシュ、ライター等様々なアニメ派生商品も創出される。製作側にとっては、これら派生商品は放送料よりも大きな収入が得られるため、その潤沢な資金を持って次の作品製作に投入することができ、良いバリューチェーンがなされているわけである。


上記五つの面において、日中アニメ産業の差が見られた。中国のアニメ産業は現状の苦境を乗り越えるためには、海外の良い経験を吸収した上、一方的な模倣ではなく、独自なものを作らなければならない。そうすれば、中国もこれからどんどん「中国オリジナリティ」を世界に発信していけるものと確信している。


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