内外戦略を特徴付ける「双贏(シュワンイン、即ち ウィン・ウィン)」

百度百科によれば、もともと英語の「ウィン・ウィン」を基にした表現で、中国の「和合」、「和諧」の伝統的思想と、西側的な「競争理念」を結合させ、競争する中で、共同で価値を創造していくことが、「双贏模式(モデル)」ということになる。「双贏」には、国内的側面と外交的側面のふたつがある。国内的には、環境問題が深刻化する中で、高成長と環境保全、生態効率と発展効率の「双贏」をどう実現するのか(2011年11月29日付西部網、12月5日付科技日報等)、また金融部門が必ずしも中小企業のファイナンスに貢献せず、そのため民間借貸(民間非正規高利貸)のような問題が発生している状況下で、実体経済に資する金融を構築するため、追求すべきは銀行と企業の双贏である(2011年12月中央経済工作会議等)など、重要課題を特徴付ける際に戦略的キーワードとなる。中国では、改革開放の過程で、市場競争原理を取り入れて高成長を果たしたが、その一方で環境悪化や所得格差の拡大が問題となり、その是正のため、現政権のスローガンのひとつが「和諧社会」の建設になった。その意味で、「双贏」は、現政権の政策・戦略全体を象徴する言葉であり、次期政権でもそれは変わらないだろう。

対外的には、外交交渉の中でのキーワードとなる。日中、日台などの経済関係について、「双贏経済」と称されることが多いが、最近では特に欧州信用不安との関係で使用される。欧州諸国から、世界最大の外貨準備を有する中国に対して、金融安定化基金等への資金援助を期待する声が大きいが、中国の立場は、「救欧」としても、それは「不公平、非対称的」であってはならず、政治経済両面で「互利双贏」の基礎の下で実行されなければならない(2011年11月外交部副部長)。欧州は中国の最大の貿易パートナーであり、その安定に貢献することは、中国自身のためでもある(温首相発言、2012年2月6日付新華社通信)。もとより中国には、国際的な援助は、歴史的に見ても、第二次大戦後、あるいはソ連東欧崩壊後、米国・NATO主導で国際体制が築かれ、また強化される契機になったとの認識がある。またアジア危機では、米国がIMFを通じて、アジアの途上国の「主権を奪った」との意識もあり、国際的援助は不公平を助長しやすいと感じている(2011年11月1日付財経網)。いわゆるグローバル・ガバナンスの議論でも、かつてのG7,G8に比し、中国を始めとする新興国がプレゼンスを増しているG20の枠組みを、「同舟共済(呉越同舟)」で「互利共(双)贏協力」の精神がより大きいものとして、歓迎・期待している(2011年11月5月付瞭望週刊、2011年6月、中国国際経済交流中心CCIEE主催、第二回全球智庫峰会、いわゆるグローバル・シンクタンクサミット)。外交で「双贏」を強調する背後にはそうした意識があり、それをもって国内を説得する一方、国際的には交渉相手から譲歩・見返りを引き出す有効な戦略となっている。


貨幣供給も、「PM2.5」で高まる「節能・環保」も「倒逼机制」を通じて

「倒逼机制」は訳し難いが、「人あるいは組織に対し、何らかの行動を促すメカニズム」とでも言うことができようか。元来は、中国が経済発展の過程でしばしば形成してきた、一連の「机制(制度的メカニズム)」のひとつとして、経済面で使われることが多いようだが、一般的にも、ある組織が、外からなんらかの圧力を受け、その圧力を緩和するために有効な措置を採らざるを得なくなる、一連の動作のプロセスを表す意味で使用される。「倒逼机制」の背後には、ある種の圧力(あるいは推進力)がある。こうした力の存在によって、組織は外部環境が不安定であると感じ、また危機意識を持つことになる。そのため、組織の主体は、不安定な外部環境を克服するための対応を考え、なんらかの「倒逼机制」が形成されるというわけである。必ずしも法的な強制メカニズムではなく、市場メカニズムが不完全な状況下で、ある行動ないし事象を生じさせる一種の体制的現象であると言われている(香港や台湾などメインランド外では、あまり使われないようである)。

経済分野では、特に中国における貨幣供給メカニズムの特徴を示す場合に使われる(2011年10月3日アジアンインサイト「高いマーシャルのKが示す中国経済の問題」参照)。貨幣供給メカニズムにおける「倒逼机制」は、主として、計画経済下のソフト・バジェットの慣習を引きずった国有企業によってもたらされている。すなわち、国有企業は地方政府と一緒になって、不断に国有銀行に対し資金を供給するよう圧力をかけ、融資が国有大企業に傾斜している銀行も、その要求に応じることになる。国有企業の要求はまず直接取引している国有銀行の末端の支店に向かい、当該支店の資金規模を超えるようになると、次第に圧力が上層に向かい、最終的には本行が人民銀行に圧力を加えて資金が供給されるという形で、常に資金供給に拡大圧力がかかっている。これが資金供給において「倒逼机制」と呼ばれているものである。「自上而下的指令管理(トップダウン)」に対抗する一種の変則的な管理手段とされるが、人民銀行がその貨幣政策を貫徹する際の不確定要素にもなっている(MBA智庫百科)。

最近では、「節能・環保(省エネ・環境保全)」への取組みで頻繁に使用される。中国国家能源(エネルギー)局は、1月の全国能源工作会議で、12次5ヵ年計画期間中のエネルギー消費の総量規制(総量控制)目標を発表した。2015年までに、年間エネルギー消費総量を41億トン(標準炭換算)前後にまで削減するというものである。 前5カ年計画期間、当初30億トンの見込みが32.5億トンになったことを考えると、今回も達成できない可能性が大きいという指摘も見当たる中、発展改革委員会等は、「倒逼机制」として、総量規制を地区毎に分解し、各地区の消費量を厳格に管理することにより、地方政府がエネルギーを徒に消費して成長を図る従来のパターンから脱皮することを迫るものであり、そのため、地方政府に目標に対する責任管理をさせ、消費総量予測警告システムを導入するとしている。環境関連では、大気汚染を引き起こす原因の一つとなっている有害な「PM2.5 (2.5ミリメートル以下の微細粒子)」が、「Hold住(香港TV番組で使われた“場が凍りつく”)」、「高鉄(温洲高速鉄道事故を受けて)」、「傷不起(“がまんできない、勘弁して欲しい”」等とならんで、中国語ウェブサイト互動百科が選んだ2011年の流行語(熱詞)のベストテン入りを果たした。中国環境保護部も、昨年11月、ようやく「PM2.5の測定重量法」を発表し、大気汚染改善に真剣に取り組み始めている。これらの問題が、連日のようにネット上で報道され、議論されるようになっていることは、一般の人々の環境汚染への不安が、中国でいよいよ高まってきていること、そしてそれに当局も対応していかざるを得なくなってきていることの証でもある。その意味で、ネットを通じた人々の不満・不安は、当局を環境問題に目を向けさせる「倒逼机制」になっているのかもしれない(2012年3月2日コラム「中国が想定する本当の中期成長率」参照)。


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