不動産市況は「量価斉跌」で「金九銀十」どころか「銅九鉄十」、「穏中求進」ならぬ「穏中有降」、ただし、その「硬着陸」は、経済の「軟着陸」にとって必要との声も、、、

2011年初からの不動産投機抑制策、緩和から「穏健」へ移行したマクロ金融政策の効果から、ようやくバブル的な不動産価格高騰に歯止めがかかり、価格と取引量が一斉に低下・減少する「量価斉跌」の状況になっている。国家統計局発表の「全国70大中城市新築住宅価格変動状況」によると、昨年10月、11月、12月、70都市のうち、前期比がマイナスになった都市は、各々34都市、49、52都市と増加している。上海、深圳、杭州など、すでに下落傾向が見られているところでは、「多米諾骨碑(ドミノの発音と意味)効応」、すなわち下落の連鎖反応が出てきている一方、これまで価格が「堅氷」でなかなか下落しなかった青海や大連、合肥などでも、氷が溶けて、価格が下落し始めた(消融)。「金九銀十」は、元来ひとつの時間的な概念で、9月、10月の農業の収穫時期を経て、冬場にかけ人々の消費意欲が増す「旺季(需要が旺盛な忙しい季節)」を指す。「楼市(不動産市場)」も同様のはずだが、かかる状況の中では、それどころか、「銅九鉄十」とも言うべき「淡季(需要が細った閑期)」になっている、昨年末開催された、翌年の経済運営の基本方針を決める中央経済工作会議のスローガンは「穏中求進」だが、不動産価格は「穏中有降」だという嘆きの声が、開発業者らから聞こえてくる。

中央経済工作会議では、「不動産市況管理政策を堅持し、不動産価格を合理的な水準に戻していくこと、保障性住宅の建設を加速させて供給を増やし、不動産市場の健全な発展を促進する」とされた。今のところ、不動産価格は「泡沫崩潰(バブル崩壊)」というより、「屡調屡漲(絶え間なく上がっていく)」状況に歯止めがかかり、安定化に向かっていると言うべき状況と見られるが、仮に短期間で急落するというような事態になると、地方政府・開発業者は深刻な影響を蒙ることになって、銀行の不良債権が増加、経済全体の「硬着陸(ハードランディング)」を招きかねない。中国科学院予測科学センターは、2012年の住宅販売価格見通しとして、年ベースで5.3%のマイナスになるとしており、人民日報は、これを、関係者何れにとっても、受け入れ可能な「和諧的」な下落幅であるとする関係者のコメントを伝えている(2月9日付コラム)。胡錦涛政権のスローガンである「和諧社会」にかけたもので、政府としても、この程度の下落幅を「軟着陸」として考えているということだろう。しかし、所詮、経済的に説明し難いバブル的な不動産価格に支えられた経済成長は持続的でない。中期的には、不動産価格が下がって合理的な水準になっていくことが、結局、経済が「軟着陸(ソフトランディング)」する条件だとの指摘もあり(「経済発展観察」国務院発展研究中心2011年12期)、それはおそらく正論だろう。今後、不動産関連政策がどうなるか、市況がどう推移するかは、短期的にも、中長期的にも、経済全体のパフォーマンスを見通していく上で、ひとつの鍵になる。

「各自為政」、縦割り行政は中国でも、、、

「各自が政を為す」、流行語というよりむしろ伝統的な表現だが、本来、統一的、整合的に行われるべきことが、関係者の間でまちまちな対応になっている場合によく使われる。「掃門前雪」(自分の庭先だけをきれいにする)と同じようなニュアンスがあるが、政治行政面では、日本語で言うところの「縦割り行政」ということになろうか。

周知のように、現行12次5ヵ年計画では、成長モデル・経済構造の転換が提唱されているが、省エネ、環境保護推進についても、GDP単位当りCO2排出量、エネルギー消費について、計画期間中に各々17%、16%削減するという数値目標が提示されている(ただしGDP単位当り規制であるので、成長を阻害しないという配慮が強く働いている点、規制としては弱い)。その後、本年1月に開催された全国エネルギー工作会議で、エネルギー消費については、計画期間中に、年間エネルギー消費量を標準炭換算で41億トン程度に抑えるとの総量規制(総量控制)目標が示された。この他、昨年12月発表された環境保護分野の5ヵ年計画では、本体5ヵ年計画に準じて、二酸化硫黄や窒素酸化物等の汚染物質排出の総量規制目標が示され、水質改善や大気汚染改善についても、本体計画より踏み込んだ目標が示されている。しかしCO2排出については、1月発表された「12次5ヵ年計画期間の温室効果ガス抑制作業計画案」でも、なおGDP単位当り17%削減目標が改めて掲げられているのみである。

CO2排出規制に関しては、2011年両会(全人代と政協会議)で、全国レベルの統一的なCO2排出取引市場(碳排放権交易市場)を創設すべきという提案が出され、さらに上記「温室効果ガス抑制作業計画案」に基づき、発展改革委員会は、まず7つの省・市で試験的な市場(試点)を創設・実施した上で、その結果を踏まえて、全国レベルでの法整備に繋げるとした。これは、2008年に北京、上海、天津、2010年深圳に取引所が別個に設立され、さらにいくつかの地域で設立の動きがあり、各市場がばらばらであること(2011年4月12日付人民日報、ただし、上記発展改革委の今回の発表からすると、北京等で設立されたと言われていた取引所は、実質的には動いていなかったということなのか、詳細はよくわからない)、こうした地方政府の「各自為政」的な状況を打破することをねらったものと考えられる。

昨年10月来、特に金融引き締め局面での中小企業の資金繰りが困難になっていることが問題となる中で、2003年「中小企業促進法」に合わせて制定された中小企業の分類基準を示す「中小企業標準暫行規定」が廃止され、新たな分類規定が統計局と発展改革委員会等関連部局共同で発表されたが、その詳細、効力が明らかでなく、中小企業をどう区分して融資を行うかについては、各銀行の「各自為政」の状況が続いており、中小企業てこ入れの効果が上がっていない(2011年7月6日付南方都市報)。その他、人民元相場をめぐり、国内輸出企業への影響を懸念する商務部が相場引き上げに慎重な意見を出す一方、マクロの金融政策の観点から、人民銀行が弾力化に前向きな発言をする構図は、以前から見られてきた。人民元の国際化についても、行政部門の中で、財政部はアジア地域での地域協力・経済統合という観点から積極的、他方、人民銀行は自らの金融政策への影響等を考えてどちらかと言えば慎重という、やはり「各自為政」的な状況が、これまで見られてきている。

中国では、共産党の下で政府各部門の統制がとれ、政策面でも整合的な運営が行われているはずだが、実際は必ずしもそうではなく、行政の縦割りについては、諸外国と似たところがある。肯定的に捉えれば、意思決定プロセスが「民主的」で「分権化」されているということかもしれないが、その分、中国でも「民主主義のコスト」を払っているということかもしれない。


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