イスラム金融はイスラム教国における金融システムである。近年、イスラム金融はグローバル展開を加速させており、特に国際金融市場では「スクーク」と呼ばれるイスラム債を中心としたイスラム金融のダイナミックな拡大に注目が集まっている。

例をあげよう。2011年11月にインドネシア政府はドル建てスクーク債10億ドルを発行した。発行時の格付けはBa1(投資不適格)だったにも関わらず、国際機関投資家の人気は高く、6.5倍の入札を背景に利率4%かつ額面での発行となった(※1)。販売先の状況は、中近東30% インドネシア12% その他アジア32% 欧州18% 米国8%と広く世界中の投資家の関心を集めたことが見て取れる。欧州主要国の国債格下げが相次ぎ、債券市場が大きく値崩れする状況のなかで極めて堅調な発行であったわけで、これはイスラム金融が国際金融市場で受け入れられる素地が出来つつある証左といえよう。

イスラム金融とはイスラムの教義(シャリア)を遵守した金融取引をベースにした金融システムである。イスラム金融ではすべての金融取引がシャリアの教義に従うものでなければならない。金融取引に関するシャリアの代表的なものに「金利」を認めないというものがある。またシャリア教義により忌避される行為(例えば、アルコール、豚肉、武器)などのビジネスに関わる取引が禁じられている。以上からイスラム金融は必然的に非イスラムの金融取引と異なる形態をとることとなる。さらに所得は労働や実体的な経済取引により獲得されるべきであるとの教義も金融取引に大きな影響を与えている。

イスラム金融は比較的新しい金融システムである。近代イスラム金融機関の先駆けとも言われるマレーシアイスラム巡礼者貯蓄組合(メッカ巡礼を目的とした積立て貯金金融機関)の創設は1963年のことであり、またスクークがドル建てで初めて国際発行されたのも2001年とわずか10数年前に過ぎない。イスラム金融の拡大は商品開発などダイナミックなイノベーションが背景にあるのだが、例えばスク-クはシャリアに遵守した金融取引から発生する収益を見合いにSPC(特別目的会社)が発行する債券として発展してきた。
イスラム金融で認められない債券(金利概念はシャリアで禁じられているため)が通常の債券と同様に取り扱われるのは、証券化で用いられる仕組みを巧みにとりこんでいるためだ。シャリア金融取引においては不動産や商品などが仕組みの中に介在し、通常は金融業務になじまない又は規制上取り扱えないなどの難点があるものを、取引から生じた収益をSPCを通じて分配する仕組みとすることで通常の金融商品として取り扱いが可能なものに仕立てている(※2)。これにより、スク-クに係る発行者や投資家などのマーケットプレイヤーがグローバルに拡がり、さらには、債券の種類(収益の源泉となるイスラム金融取引)や投資家保護の観点を取り込んだ仕組みの開発など金融取引や商品開発をめぐるイノベーションがイスラム金融の一層のグローバル化に大きく貢献している。

世界のイスラム教徒(ムスリム)は世界の世界人口の約4分の1(16億人)を占めるといわれる。そのうち約95%がアジア中東アフリカに居住し、とりわけアジアには10億人ものムスリムが居住する。さらなるムスリム人口の増大状況などを考えると、豊富な石油資源を有する中近東諸国や経済成長著しいアジアにおけるイスラム国(インドネシアは世界最大のムスリム人口1億9500万人を擁する)は、グローバル展開を模索する日本にとって有望な市場であることは間違いない。その際、イスラム金融はイスラム教国における事業展開の上でもますます積極的な取り組みが必要な不可欠なツールとなっていこう。

(※1)大手格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、2012年1月18日、インドネシアの外貨建て、ルピア建て長期国債格付けを「Ba1」から「Baa3」(投資適格)に引き上げた。
(※2)インドネシア政府発行スクークでは、発行体(SPC)にリース物件を所有し、リース取引から生ずる利益に対する権利が付与されている。投資家はその利益に対する受益権を有する。


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