ベトナムの酪農はどこまで伸びるか

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製造拠点に加え「消費市場」としての魅力が高まりつつあるアセアン地域。なかでもベトナムには、(1)アセアン10カ国中で第3位となる人口規模(2010年時点で8,693万人)、(2)高水準にある平均経済成長率(2000~2010年の平均成長率7.3%)、(3)ボリュームゾーン予備軍とも呼ぶべき豊富な若年層の存在(2011年の年齢中央値27.8歳)などの理由から、大きな期待がかけられているようだ。筆者が現地で目にした牛乳・乳製品市場の急拡大も、その萌芽を感じさせるものだが、本コラムではその川上に位置するベトナム酪農の実態について概観したい。

上述のように、ベトナムでは牛乳・乳製品市場が急拡大を遂げている。これは、一人当たりGDPの伸長と関連しており、2002年の時点で一人当たりGDPが440ドルに対し、一人当たりの牛乳・乳製品供給量は年間7.3kgに過ぎなかったものが、2007年には一人当たりGDPの843ドルに対し、牛乳・乳製品供給量は11.9kg/人/年に上昇している(図表1)。一人当たりの牛乳・乳製品供給量は経済成長に伴い、わずか5年間で1.6倍に急拡大した計算になる。

図表1 ベトナムにおける一人当たりGDPと牛乳・乳製品供給量の推移

出所:General Statistics Office of VietnamおよびFAOSTATより大和総研作成
注)牛乳・乳製品供給量として、FAOSTATより“Milk - Excluding Butter”の数値を用いた。

周辺国との比較を、一人当たりGDPと牛乳・乳製品供給量の関係から示したのが図表2である。一人当たりGDPが比較的高いマレーシア、タイの牛乳・乳製品供給量は、マレーシアで36.9kg/人/年、タイが22.5kg/人/年となっている。これに対し、一人当たりGDPが比較的低いミャンマー、カンボジア、ラオスを見ると、ミャンマーこそ25.5kg/人/年と比較的高水準なものの、カンボジアで5.6kg/人/年、ラオスでは4.6kg/人/年に過ぎない。他方、ベトナム、フィリピン、インドネシアの一人当たりGDPはこれらの中間となる水準で、牛乳・乳製品供給量は10.0~20.0kg/人/年の範囲にとどまる。各国の比較については、文化、食習慣の違いなどからミャンマーのような例外はあるものの、アセアン地域では概ね、一人あたりGDPの増加につれ、牛乳・乳製品供給量も高まる傾向にあることが分かる。

図表2 アセアン地域における一人当たりGDPと牛乳・乳製品供給量(2007年)

出所:UN “National Accounts Main Aggregates Database”およびFAOSTATより大和総研作成
注1)アセアン加盟国のうち、シンガポールとブルネイは除外。
注2) 牛乳・乳製品供給量として、FAOSTATより“Milk - Excluding Butter”の数値を用いた。

このように、近年の経済成長に伴い乳製品市場規模は順調に拡大している一方で、マレーシアやタイに比べると依然として低い水準にあることも指摘せねばなるまい。ただし、逆に言えば、ベトナムでは今後も一層の経済成長が進むと牛乳・乳製品消費もさらに拡大する、こうした余地が大きいと期待することもできる。

実際、こうした国内需要に呼応し、ベトナム国内の牛乳生産量はここ10年間増加傾向にある(図表3)。2000年の5.1万トンに比して、2009年の牛乳生産量は27.8万トンと約5.4倍の水準に増大している。

図表3 ベトナムにおける牛乳の国内生産量

出所:General Statistics Office of Vietnamより大和総研作成

以上のような状況を背景に、順調な拡大基調にあるベトナムの酪農だが、飼料の確保が今後ボトルネックになる可能性がある。図表4に示すとおり、ベトナムの飼料輸入金額は2006年に7.0億ドルだったが、2010年には21.7億ドルにまで増加している。世界の穀物価格が2008年を中心に高水準で推移したなど種々の理由によるものの、ベトナムの飼料輸入は確実に増加傾向にある。

穀物の国際価格は、天候不順による不作、主要輸出国の輸出規制、バイオ燃料向け需要の増大など様々な要因で上昇することが多く、飼料の過度な海外依存は、酪農におけるコスト高に直結し易い欠点がある。ベトナムの酪農が今後も順調な発展をするには、いずれ国内を中心に飼料の安定確保対策がきわめて重要なポイントとなっていこう。

図表4 ベトナムにおける飼料輸入金額の推移

出所:“International Merchandise Trade Vietnam”およびGeneral Statistics Office of Vietnamより大和総研作成


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