アジアンインサイト
マレーシアにおけるバイオマス産業の夜明け

2011年9月22日

  • アジア事業開発部 吉田 仁
大量に存在するバイオマス

マレーシアはインドネシアと並び世界一、二を争うパーム油生産国であり、その生産量は年間で約1,700万トン(※1)にも及ぶ。パーム油関連製品の輸出額は約600億RM(1.8兆円相当)と同国のGDPの8%を占め、パーム油産業はマレーシアの一大産業である。大量のパーム油が生産されれば、大量のバイオマスが発生する(図表1)。具体的には、年間1,700万トンの粗パーム油が生産される傍ら、6,000万トンの廃液、3,500万トンの固形廃棄物(空果房や繊維、殻など)が搾油工場から排出されている。

このように大量のバイオマスが排出されているにも拘わらず、同国のバイオマスは、固形廃棄物の一部が搾油工場内のボイラーに投下され自家消費されているにとどまり、むしろ環境に悪影響を与えているというのが現状である。

図表1:パーム油搾油工場内に積まれるオイルパームの実

パーム油搾油工場内に積まれるオイルパームの実

注:これらはパーム油の原料となるオイルパームの実(FFB;Fresh Fruit Bunch)である。搾油工場の工程において、FFBに水が投入されるため、排出される廃棄物の量はこれらFFBよりも大量なものとなる。

ボトルネックは低収益性と高リスク

バイオマス産業活性化のボトルネックは、当該産業の低収益性と高リスクにあると考える。低収益性の一例として、2000年代後半に排出量取引のF/S調査が積極的にされたことを挙げたい。F/S調査の内容は、廃水などから発生するメタンガス(温暖化ガスのひとつ)を大気放出せず回収することで、排出量取引を収入源とする事業のF/Sである。積極的にF/S調査がされたことは、裏を返せば、追加性が証明されていること、すなわち、低収益性が故に排出量取引なくして事業化が望まれないことを示している。

当該産業が抱えるリスクとして主要な3つを挙げるとすれば、販売リスク、原材料リスク、制度変更リスクと考える。販売リスクとは、製品販売先の確保や製品価格のリスクである。原材料リスクとは、パーム油事業者からのバイオマスの安定供給や調達金額のリスクである。特にバイオマス産業が活性化した場合、バイオマスの争奪が発生する恐れがある。制度変更リスクとは、環境規制の変更などによりバイオマスの処理工程が変更されるリスクである。パーム油産業は環境NGOなどから環境保護の要請などを受けており、今後の制度変更のリスクは無視できないだろう

なお、前述の排出量取引がバイオマス産業活性化のきっかけにならなかった理由は、販売リスク(排出量価格の変動)や制度変更リスク(排出量取引制度の持続性)のためと考えられる。

フィードインタリフ制度の開始で収益性改善の見通し

今、外部環境が変わろうとしている。2011年4月にフィードインタリフ制度を含んだ再生可能エネルギー法(Renewable Energy Act 2011)が可決され、2011年12月に施行される予定である(※2)。これにより、メタンガスや固形廃棄物を燃焼・発電し、固定価格で電力会社に売電可能となる。その価格は図表2のとおりで、従来0.20RM前後(※3)であった買取価格が1.5~2.0倍に上昇する。

図表2:フィードインタリフ制度による買取価格

図表2:フィードインタリフ制度による買取価格

注:本図表には記載していないが、小水力発電や太陽光発電による電力も買取対象となる
出所:Renewable Energy Act 2011より大和総研作成

買取価格上昇による事業収益性へのインパクトを試算すると図表3の通りである。これらの事業収支は、財団法人地球環境センターが公表しているCDM/JI事業調査結果データベースの報告書より、いくつかのマレーシアにおけるパーム油バイオマスの活用にかかる事業を抽出し、それらの前提を用いて試算したものである。図表3における従来IRRとは、従来の買取金額で排出量取引を加味しない場合のIRRである。最も高くてもIRRは10%に過ぎず、排出量取引なくして事業化不可能な水準である。一方、新しい買取価格ではIRRが10%~25%程度に上昇する。事業Aはもちろんのこと、事業B~Dについても、現実的な数字に近づくものと計算される。

図表3:買取価格上昇によるインパクト

図表3:買取価格上昇によるインパクト

注1:事業A~Dはマレーシアにおけるパーム油バイオマスの活用にかかる事業
注2:従来IRR、新IRRともに排出量取引による収益を控除している
注3:IRRは税金、利息を考慮しない16年間のプロジェクトIRRを使用
出所:財団法人地球環境センターのCDM/JI事業調査結果データベースを用いて大和総研試算

PPPを活用したバイオマス事業

バイオマス事業には、公共の目的としての環境保護と民間事業としての収益追求という2つの目的がある。フィードインタリフ制度は後者には有効に機能するが、前者には何ら機能するものではない。

公共の目的を効率的に達成する方法として、PPP(Public Private Partnership)の枠組みを提案したい。「バイオマス活用=廃棄物処理」と捉えて公共事業として定義づけ、官も事業に参加しリスクを分担する仕組みである。公共事業として官が積極的に参加することで、原材料リスクや制度変更リスクを低減することもできる。無論、一方的に官に頼るわけではない。バイオマス産業は、マレーシアの国策に則ったものであるだけでなく、廃棄物の適切な処理を促し、地球温暖化防止にも適い、環境にも貢献する。

フィードインタリフの開始という外部環境の改善に加え、このようなPPPの枠組みを掛け合わせることで、マレーシアのバイオマス産業を切り拓くことができるのではないだろうか。

 

(注1)2010年の粗パーム油生産量。出所はMPOB(Malaysia Palm Oil Board)。
(注2)SEDA(Sustainable Energy Development Authority)webサイトより。
(注3)従来は各事業者と電力会社との協議によって買取価格が決まっていたため、地域差や事業者間による差異があった。


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