諸事件から見た中国における企業経営の注意点

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最近、中国で多くの虚偽宣伝事件が摘発されている。ここに二つの事件を例として挙げてみる。一つは中国の高級家具会社ダヴィンチ家居の産地偽装問題に代表される中国系企業(注:ダヴィンチ家居は中外合弁企業であるが、実質的に中国企業であることから、中国系企業とする)の虚偽宣伝事件で、他方はブランドフランチャイズの形で中国で事業展開し、香港上場の味千ラーメンの豚骨スープ事件に代表される外国系企業の虚偽宣伝事件である。

一、ダヴィンチ事件

あらまし:
ダヴィンチ家居は、その代理するイタリアブランドの家具がイタリア製の高級木造家具であることをうりに高い値段で売っている会社である。この会社が産地偽装、原材料偽装、通関書類偽造をしていたことが今年の上半期に中国中央テレビの『毎週品質報告』という番組を初めとするメディアで報道された。その後、工商局を初めとする行政機関の取り調べでは、同社が中国製の家具の輸出手続きをいったん取った後、上海に送り返し、上海で輸入手続きを取り、1日で輸入品に変身させる悪質な偽装行為を取ったり、人体に悪影響のある化学物質が基準値以上に含まれる人工板や樹脂を貴重なイタリア産木材と偽り、原価が数万元、数十万元の中国製家具をイタリア製として数十万元、数百万元で売っていたことが分かった。

同社が受けた影響:
1)1日あたりの売上高が急減
2)消費者からの巨額な賠償請求や中国法律による制裁が待っている。

類似事件:
MARUBI丸美
日本の化粧品ブランドであると宣伝したが、実はローカルブランドであるとメディアの調べで判明。
KALTENDIN
イタリアのトップレベルの服装ブランドであると宣伝したが、実はローカルブランドであるとメディアの調べで判明。
ORDER
本部がドイツにある床板ブランドであると宣伝したが、実はローカルブランドであるとメディアの調べで判明。
BIOSTIME合生元
フランスの児童栄養品ブランドであると宣伝したが、実はローカルブランドであるとメディアの調べで判明。

二、豚骨スープ事件

あらまし:
味千ラーメンは、豚骨を長時間煮込んで作ったカルシウム豊富な豚骨スープで有名なラーメンチェイン店である。このラーメン屋がPRしている豚骨スープは濃縮スープを薄めて提供しているが、公式サイトで宣伝している豚骨ラーメン1杯(360ミリリットル)のカルシウム含有量は実は濃縮スープのカルシウム含有量であり、宣伝された1,600ミリグラムの三分の一に過ぎないことが、中国メディアで報道された。

同社が受けた影響:
1)同社の株価は数日間連続で急落。
2)店内はがらがらで、長い列が出来たのは過去のこと。
3)同社が掲げた2011年150店舗新規開店の目標達成は到底おぼつかなくなってしまった。

類似事件:
Dairy Queen
使っているジャムが輸入品であると宣伝したが、実はローカル企業製のジャムと報道された後、第2弾で割高で売っているアイスクリームに使うクリームも中国ローカルアイスクリームメーカー製のものであると報道された。
ケンタッキー
割高で売っているローカルメニューの豆乳が、消費者の常識にあるフレッシュなものではなく、粉末と濃縮豆乳で作ったインスタント飲料であると報道された後、さらに揚げ物用の油にも問題があると報道された。

共通点分析

1)メディアの役割
メディアはこれらの事件で重要な役割を果たしている。メディアによる報道でこれらの事件は一般的に知られるようになり、企業は少なからず影響を受けた。

2)虚偽宣伝、誇大宣伝
事件が発生した企業は商品に魅力をつけるために、外国ブランドと偽装したり、栄養成分を誇大して宣伝し、消費者を引き付け、売上を伸ばし、利益を獲得した。

3)消費者詐欺
外国ブランドならば、値段が割高でも、品質は保証されるはずと信じていた消費者はこれらが全て嘘だと知った後、自分が騙された、裏切られたと怒り、虚偽宣伝や誇大宣伝をした企業を見捨てるはず。

4)事件発生後の対応不足
事件発生後、企業の対応はそれぞれであった。

ダヴィンチ家居は、事件が発生してから数日後に開かれた記者会見、およびメディアに対し発布した公開レターで、メディアの報道したことが全て無実なことであるとひたすら否定し、消費者に対しては後悔の意思を一切示さなかった。事実であると否定できなくなった後も、事件解決の誠意を示さなかった。

味千ラーメンは、事件が発生してから間もなく豚骨スープが、濃縮スープを薄めて作ったものであると認め、公式サイトで濃縮スープを作った流れを開示したが、濃縮スープを作った企業名について、主動的に開示しなかった。栄養成分の誇大宣伝についても密かに公式サイトでの宣伝用語を変え、カルシウム含有量の換算ミスであるとごまかした。

5)企業信用力の低下とブランドイメージに傷がついた
このような事件を経て、これら企業の信用力が大幅に低下し、ブランドイメージが傷つけられた。

企業経営における注意点

1)自粛が必要
上記事件の中で、メディアに報道される前の政府行政機関の監督管理上の不作為が目立っているが、だからと言って企業として、特に消費者を相手とする企業として自粛しなくていいわけではない。インターネットやミニブログなどの人々の中での浸透やメディアの発展に伴い、今の時代の企業を巡る環境は透明といえば透明であるため、僥倖を願う気持ちで企業経営したら、いつかはきっとひどい目に遭ってしまうと思う。企業を長く存続させようとするならば、自粛しながら企業経営をしていたほうが良い。

2)消費者を大事にすべき
中国国内では、ここ数年、食品や家具などの分野における添加物不法使用や化学物質過量使用など事件が頻発している。消費者の国産品に対する信頼感が失われつつ、割高で品質が保証できる外国製のものに対する関心が高まってきている。本来ならば、せっかく中国の消費者に受け入れられた外国ブランドは、消費者の期待に終始正直に応えなければならず、国内ブランドの場合、品質の改善に力を入れ、消費者の国産品への信頼感を取り戻すのに努めなければならないが、「巧妙」な手段を取って、国産品を輸入品と宣伝して消費者を引き付けるのは短期間でみれば、マーケティング効果があり、高額な利益を取得できるが、消費者に対し隠したことがいったん暴露されたら、その企業に対するマイナスの衝撃力は予想できないほど大きいと思う。長期間会社経営をしていくためには、消費者を終始大事にしなければならない。

3)危機対応の際、誠意を示すのが重要
ダヴィンチ家居や味千ラーメンは、危機発生後に誠意を消費者に示すどころか、真相を隠そうとした。中国語の「欲蓋弥彰」という言葉がいうように、悪事を隠そうとすればするほど明らかになる。両社に対する連続報道で真相が徐々に露呈してきたことは正に「欲蓋弥彰」のいう通りである。中国語の中に更に「亡羊補牢」という言葉があり、というのは、失敗した後ですぐに手当てをすれば、災いや過ちを大きくしないで済むたとえである。危機発生後、企業は少なくとも「亡羊補牢」しなければならない。

4)ブランド管理が重要
ブランドフランチャイズの場合、企業経営は基本的にブランド借入者が行うため、ブランド管理は更に重要となる。ブランドイメージを維持するために、ブランド保有者としてはフランチャイズ契約の中でブランド管理の義務を相手に課し、日常の経営管理について監督管理する権利を取得することが重要と考える。


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