腐敗・汚職防止につながるか—中国「3つの公費」の公開

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全国人大常務委員会は2011年5月、高すぎる行政コスト、透明性の欠如に対する庶民の不満の高まりを背景に、中央の各行政部門に対し、公務出張費、公用車の購入・維持費、公務接待費のいわゆる「三公経費」を明らかにするよう求め、地方行政部門に対しても中央にならって検討するよう指示を出した。これに応じて6月末には、2010年決算に合わせて、財政部が初めて、中央行政部門全体の三公経費は2010年94.7億元(約1200億円強)にのぼると発表した(行政管理経費総額887.1億元の10.7%)。三公経費の公開には消極的で遅々として応じてこなかった各部門も、7月に入り、ようやく順次公開を始め、98に及ぶ部門のうち84が公開を終えている(7月25日現在)。人民網報道を基にすると、2010年決算および2011年予算ベースで、三公経費の高い部門は国家質量監督検疫当局、中国科学院、銀行監督委、農業部等である。鉄道部は、たまたま高速鉄道事故が発生した7月23日に公開し注目されたが、2010年決算、2011年予算とも1千万元程度で、金額的には大きい方ではない。
これまでメディアや専門家の間では、地方も含め全国で三公経費は毎年9000億元、行政経費全体の3分の1にのぼるとされてきており、今回の公開は中央分だけとはいえ、金額的に少なく、また行政経費に占める比率も10分の1と低い。27日付検察日報は、庶民からすると、行政部門がこの問題に対し黙っているということは黙認していることにほかならず、これが庶民の疑念・怒りを増幅させ、公開につながってきたとする。同日報によれば、なおいくつかの部門は、国務院からの指示にもかかわらず公開に応じておらず、また地方政府で自主的に公開しているのは、今のところ北京のみで(それによると、2010年11.3億元で、その8割の9.1億元が公用車経費)、大半は黙殺している状況にあるという(山東省、江西省が準備中と表明)。
経費の公開が始まったことに対する中国国内メディアの関心は高く、この問題専用のページを策定しているところもある(捜狐新聞)。大半は各部門からの公開情報を報じているだけであるが、公開数値がこれまで憶測されてきた数値よりはるかに小さいこともあろうか、その信頼性や意義等ついて、疑念もかなり出されている。25日付京華時報は、行政が言うところの「三公」と、庶民が問題としている「三公」とは全く別のものだと指摘する。すなわち、庶民が問題としているのは、公費を使用した私的な旅行、公用車の私用、公費での飲み食いだが、公表されている数値は、「精緻に仕組まれた記載様式と簡単な注釈」によって、全くそうした情報はわからないようになっており、庶民にとって「天からの書(天書、ちんぷんかんぷん)」なものとなっている。また公開のタイミングにも疑念が出されている。たとえば25日付東方早報は、公開を週末や金曜深夜等に行う部門が少なからずあることに着目しており、それによると、公開した部門の約3分の1の23部門が金曜、4部門が週末、その他普段の日でも、一般の勤務時間終了後や、さらには夜10時に公開する部門もある。できるだけ注目されないような公表のタイミングを選んでおり、したがって何か後ろめたいところがあるのではないかとの疑念を生じさせているというわけだ。さらに、そもそも三公経費の定義や範囲はかなり部門によって異なり、したがって部門間の比較をして優劣を論じることもあまり意味がないとの指摘も見られる(全人代委員)。

総じて言えば、現状、「庶民の問題意識に応えておらず何のための公開か、公開のための公開にすぎないのではないか」という批判と、そうは言っても「公開しないよりはまし」、「さらに改善していくことによって、行政経費の透明性を高め、経費管理につながっていく」との評価とが交錯している状況にある。中国では、所得格差の拡大が進む中で、その背後にある政府部門の無駄使い、汚職、腐敗に対する庶民の不満が以前にも増して高まっている。冷めた目で見れば、庶民の不満や怒りのガス抜きのために公開を始めたと言えようが、公開自体は行政面での一歩前進であることにはちがいない。ただ、ほんとうに公費での私的旅行や飲み食い等の根絶につなげていくには、まだまだ道のりは遠そうだ。今後、地方も含めてどのような公開がなされていくのか、全人代や国務院がさらになんらか厳格な対応を出してくるのか注目される。なお、現行の中国予算法は、財政部に対し、行政部門毎のこうした経費を公開する権限までは規定しておらず、法制面での空白があるようだ。予算法の修正は、地方政府に債券発行を認めるかどうかの問題も出てきており、今後課題となってこよう。

(三公経費の高い部門)
  2010年決算(万元) 2011年予算(万元) 合計差
  公務出張費 公用車購入・維持費 公務接待費 合計 公務出張費 公用車購入・維持費 公務接待費 合計  
国家質量監督検疫当局 2868 27782 11236 41886 2396 26982 11385 40763 ▼1120
中国科学院 11296 7420 9996 28711 9412 6895 8044 24351 ▼4361
銀監委 1693 23359 3193 28245 1740 22572 3395 27707 539
農業部 4854 15140 3656 23650 4938 15109 3756 23803 ▼153
中国気象局 1838 16941 3960 22739 1348 16564 3449 21361 ▼1378
水利部 1076 9994 951 12021 1196 8372 948 10516 ▼1506
国家統計局 1311 7191 3126 11628 1406 6840 3139 11385 ▼243
交通運輸部 1239 8256 960 10455 1270 8872 855 10996 542
(資料)人民網等報道から大和総研作成


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