アジアンインサイト
地熱発電大国へと突き進むインドネシア

~大規模開発計画とそれを支える日本企業~

2011年7月1日

  • アジア事業調査部 天間 崇文
去る2011年3月11日に発生した大地震と津波による福島第一原発の事故を受け、巷間では原子力の代替となるエネルギーについての議論が喧しい。そのような中、日本の特性を活かしたエネルギーとして取り上げられる機会が増えたものの一つに地熱発電がある。しかし、残念なことに政府の消極姿勢や開発規制などもあって近年の進展は捗々しくない。一方、そんな日本を尻目に、明確な将来展望のもと世界一の地熱発電大国に向けて邁進する東南アジアの国がある。それが、インドネシアだ。

なぜ、インドネシアで地熱発電なのか。第一に、インドネシアは日本と同様、太平洋を取り巻く環太平洋火山帯に位置する。そのため、インドネシアは領内の地熱資源量で世界第1位であり、2位米国、3位日本とともに、4位のフィリピン以下を大きく引き離す圧倒的な地熱資源大国である。いまや石油の純輸入国でもあるインドネシアにとって、燃料の枯渇や価格高騰の懸念が少ない地熱は、経済効率面でもエネルギー安全保障面でも望ましい。第二に、地熱発電は水力発電に次いで温暖化ガス排出量が少ない。インドネシア政府は、海面上昇による領土喪失や農業被害などから地球温暖化を深刻な脅威と捉えており、2020年までに2005年比で温暖化ガス排出量を26%削減するという目標を掲げている。地熱の利用はこの政府方針に完全に一致しているわけである。第三に、太陽光や風力発電には天候等による出力変動が大きいといった難点があるが、地熱発電は24時間365日安定した出力が可能である。

以上の利点を活かすべく、インドネシアのユドヨノ政権は2005年に大規模な地熱開発の行程表を策定し、翌年これを大統領令として発布した。それによれば、2005年の857MW(MW:メガワット)を起点に、2008年2000MW, 2012年3442MW, 2016年5000MWと進み, 最終的には2025年時点で9500MWにまで地熱発電容量を拡大することが計画されている。参考までに示すと、渦中の福島第一原発の総発電能力は約5000MW、 90年代半ば以来横這い状態の日本の総地熱発電容量は約500MWである。つまり、地熱発電量で言えば5年後のインドネシアは現状の日本の10倍に達し、福島第一原発丸ごと一つ分の発電能力を全て地熱で賄う計算になる。進捗の実態を見てみると、2010年時点で実装済の地熱発電設備容量は1200MWに止まっており、計画が遅れ気味なのは否めないが、2010年4月にはユドヨノ大統領自らがバリで開催された世界地熱会議(World Geothermal Congress)に於いて、世界一の地熱利用大国になる意思を改めて表明した。また、会議冒頭では総額約50億ドルに及ぶ12の地熱関連事業の契約書が調印されるなど、政府目標達成に向けた動きが次々と具体化している。目標の完全達成はともかくとして、近い将来インドネシアが地熱大国として世界の注目を集める可能性は十分に高い。

ところで、インドネシアにおける上記の壮大な地熱開発計画について、日本はただ指を咥えて眺めているだけではないことも指摘しておこう。実は世界の地熱発電設備の大部分は日本企業が手がけたものであり、インドネシアの地熱発電振興は日本企業にとっても大きな事業機会なのである。例えば、地熱発電設備には腐食性の熱水や高温蒸気に対する長期の耐性が要求されるが、この点で日本企業は高度な技術を有しており、国内の大手重電メーカーが地熱発電用タービン等の世界シェアの7割以上を占める。最近でも、住友商事と富士電機システムズが、スマトラ南部で発電装置2機(総出力110MW)を受注したほか、伊藤忠商事と九州電力がスマトラ北部のサルーラ地熱発電所(総出力330MW)建設への参画交渉を進めている。インドネシア以外でも、ニュージーランドにある世界最大の地熱発電所の設備は日本製(富士電機製)であること、この4月に東芝が新規地熱発電所の建設をニュージーランドで受注した事実などは、同分野での日本企業の健在ぶりを物語る。

このように地熱発電設備の輸出に関しては、技術・実績の両面で日本企業に明らかな優位があり、今後の輸出産業の新たな柱となる可能性を秘めている。親日国インドネシアの地熱発電振興策は、その基礎を固めるためのまたとない好機と言えるだろう。また将来、国内の地熱開発を妨げている諸規制が緩和されれば、海外での開発経験を基に洗練された最新地熱技術が日本に逆輸入されるという途も拓ける。東南アジアで成長した国産の地熱発電技術が国内電力供給の主役の一角を担う、そんな日が遠からず来ることを、東日本一帯が電力不足の中の猛暑に喘ぐ今、切に祈りたい。


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