アジアンインサイト
タイ農村地域における天候リスクヘッジの試み ~天候インデックス保険~

2011年5月16日

  • アジア事業調査部 圓 真耶子
タイは、2008年秋の世界金融危機直後に大幅な経済の失速を経験したものの、好調な輸出も後押しし、2010年には前年比7.8%の実質成長を達成している。タイでは、自動車、電気・電子産業を中心に産業集積が進み、製造業の輸出拠点として存在感を高めているが、その就業構造を見ると、3,832万人の就業者のうち、約4割(1,518万人)が農林水産業に従事している。GDPに占める農林水産業の割合は2010年には、8.3%にまで低下し、10年前から2%ポイントの低下となっているが、雇用への寄与度の観点から、依然として重要産業の一つであるといえる。

一方、地域別所得水準に目を向けると、バンコク周辺の一人当たり年間GDPが370,611バーツ(2009年、約104万円)であるのに対し、農業人口の多い東北地方においては、48,481バーツ(同、約13.5万円)とバンコクの約8分の1の水準となっており、所得格差が歴然と存在していることが分かる。

こうした所得格差の一因となっているのが、農業に不適な東北部の土壌環境と、頻発する旱魃、洪水等の自然災害による恒常的な農業の低生産性と、これらに起因する不安定な農業収入である。東北地方は土壌の水分保持が難しく、灌漑施設等の水源開発が困難とされている。そのため、同地では天水農法に依存する農家が多く、天候不順の影響を大きく受ける。タイで過去30年間に起きた旱魃は7回、洪水は69回に及んでおり、同国における災害リスクの高さを表している。また、東北コンケン県を例にとると、サトウキビ育成に必要とされる年間降水量1,000mmを下回った年が過去40年間に8回に及び、旱魃対策がサトウキビ農家の重大課題の一つとなっているという。

このような旱魃による経済損害の緩和を目的に、2010年1月より損保ジャパンタイランド(以下、「損保ジャパンタイ」)がコンケン県を対象とした天候デリバティブ保険の販売を開始した。これは、国際協力銀行(JBIC)の協力の下、損保ジャパンタイがタイ農業協同組合銀行(BAAC)と保険契約を締結し、BAACを通じて農業従事者の加入募集を行うものである。

天候インデックス保険とは、天候デリバティブと同類で、天候(気温、降水量、風力、積雪量等)に関する指標(インデックス)が一定水準を超えた(または下回った)場合に事前に定めた保険金の支払いを受けることができるものである。通常の損害保険と違い、実際の損害の有無に拘らず補償を受けられ、迅速な支払いが可能であるといわれる。また、作物の出来高や価格が一定量を下回った場合に補償が行われる農業保険と違い、支払いの判断が降水量等の明確な指標に基づいて実施される点も特徴的である。

コンケン県における2010年の保険加入者実績は1,158名と、損保ジャパンタイが設定した当初目標の1,000名を超え、好調な滑り出しとなっている。2011年2月以降は、前年実績を踏まえた商品改定の上、コンケン県、その他4県に拡張する計画ということだ(保険の概要は下図参照)。

天候デリバティブ等の金融商品は先進国では珍しいものではないが、保険料算定のための膨大なデータ収集・分析、観測所等のインフラにもコストがかかるため、途上国での導入は決して容易ではない。その他、途上国の低い保険普及率、保険加入者が増えた場合のリスク移転等の課題も指摘される。タイにおける天候インデックス保険については、効果検証の段階であり、農業従事者へのインパクトを評価するのは時期尚早である。さらに対象地域の拡充を検討する際には、農民にとっての保険料負担等を十分検証することが、加入者を増やす上で必要になるであろう。今後、天候インデックス保険が、天候不順による経済的損失の軽減、家計の安定に結び付く金融商品として機能・発展していくことを期待したい。

タイ全体図と地域別一人あたりGDP(2009年)


タイ天候インデックス保険の概要



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