アジアンインサイト
レアアース問題で重視すべきなのは

~中国の輸出削減は日本に対する報復措置なのか?~

2011年2月25日

  • アジア事業開発部 山本 義徳
昨秋、尖閣諸島沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突の問題に関連して、中国がレアアースの対日輸出を制限し、税関検査を厳格化するなどの報復措置を実施していると盛んに報道された。レアアースの名はこれにより一躍有名になったが、レアアースとは希土類17元素の総称であり、少量を加えることにより従来の製品の数倍の能力を引き出すものとして利用されることが多い。例えば、最も注目度の高いネオジムは、従来の10倍近い磁力を持つ永久磁石の原料で、磁力が強い特性を利用して、HDD(ハードディスクドライブ)やCDプレーヤー、携帯電話などのあらゆる電子機器に使用されている。また、モーターの小型化・軽量化が図れるため、ハイブリッドカーなどにも欠かせない原材料となっている。

もっとも、希土類元素は最近になって使われ始めたわけではなく、1968年に日立製作所が「キドカラー」という商標・愛称で売り出したカラーテレビに使用されたことでも知られる。このテレビはユウロピウムやテルビウムなどの希土類をブラウン管内部の蛍光体材料として用いて輝度を上げ、当時、赤色の発色の良さを売り物にしていた。「キド」というのは「輝度」と「希土」をもじったもので、大々的なCM効果もあり、一世を風靡する商品となった。また、セリウムは液晶パネルやHDDに組み込まれるガラス基板の研磨剤として有名で、表面の平面研磨に不可欠な元素となっている。さらに、紫外線を吸収する性質があるため、サングラスなどのガラスや化粧品などにも使用されるほか、蛍光体や排ガス浄化の触媒としても使われている。最近では、抗血液凝固作用があることが判明し、血栓防止の研究にも活用されている。

以上のようにレアアースは、産業製品にとって欠かせない重要元素だが、その全世界の生産量のうち97%とそのほとんどを中国が担っている状況にある。ところが、実際の埋蔵量の状況を見ると、レアアースは中国にしかないわけではない。中国の埋蔵量は全世界の3割程度を占めるに過ぎず、現状が如何に極端に偏った供給構造になっているが分かる(図表参照)。この偏りを是正するため、中国政府は2003年以来、輸出構造の調整を図る政策を採り、平均して年1割程度の産出削減が行われているほか、増値税(付加価値税)の還付廃止や輸出関税の賦課などの措置を相次いで導入している。

世界のレアアース埋蔵量

このように、そもそもレアアースの埋蔵量が3割の国が世界の97%の生産量をカバーするという状況は異常で、本来なら各国が協力して是正されるべきであるが、それが行われていないことが根本的な問題ということに気付こう。各国は中国がレアアースを低価格で輸出するため、競争力が阻害されていると主張しているが、これも一方的な見方ではないか。実際には、レアアースは再生不可能な資源で、その上その開発には大きな環境汚染を伴い易い。このため、先進国は積極的にレアアース開発に取り組まない事情があるようだ。多少価格が上がっても、中国が許容可能な価格で輸出を続ける限り、自国の埋蔵量は温存して中国から安値で買い続ける方が資源エネルギー政策上は得策だという判断が働いているのではないか。したがって、一国への依存状態が続けばいずれ中国の資源は枯渇し、環境汚染が残るのみということにもなりかねず、中国政府が輸出制限や関税強化を実施するのには一定の合理性がある。

むしろ注意を払うべきなのは、レアアース生産に伴い深刻な環境汚染が発生し易いという問題で、一衣帯水の隣国である中国の環境汚染は日本にとっても深刻な事態を招きかねない。実際、中国でレアアースを採掘しているのは中小企業が多く、十分な環境保護設備を設けずに、廃液、固体廃棄物、排ガスなどが無造作に廃棄されるという事情を漏れ聞く。内モンゴルの包頭市では深刻な土壌汚染が広がっており、飲用水の取水口にまでレアアース工場の排水が及んでいるという報告もある。さらに、レアアース鉱石の多くがウランやトリウムなどを含有するため、その精製過程で放射性廃棄物が発生する。この処理に多大な費用がかかり、それらはレアアース価格に転嫁されるはずだが、中国ではその対策が不十分であるため価格が安く抑えられるという指摘もある。

春になると中国大陸より飛来する黄砂が日本の各地を悩ませるが、その黄砂はゴビ砂漠やタクラマカン砂漠を飛び立ち、内モンゴルや青海省などのレアアース生産地域の上空を越えてはるばる日本へとやって来る。その中継点がレアアース生産で汚染され、放射性物質まで含んだ黄砂が飛来している可能性も否定できないのだが、そのようなことはあまり議論されない。いたずらに問題を煽るつもりはないが、「尖閣諸島沖衝突事件の報復手段として中国がレアアースを出し渋り」という政治的な駆け引きよりも、中国がレアアースを低価格で輸出して来た背景には中国企業の不十分な環境対策があり、それを黙認あるいは結果的に助長することに繋がりかねない先進各国の自国中心的な輸入政策が続けられてきた事実にも目を向けるべきだ。その結果が日本などの環境危機に及ぶ事態を招いているとしたら、それこそ大変な問題であろう。

尖閣諸島沖衝突事件とレアアース輸出問題を結びつけた報道がされ始めた時、温家宝総理はいちはやく「中国は対日カードとしてレアアース問題を取り上げたことはない」と発言していたし、商務相の陳徳銘氏も日本の関係者との会談で、「レアアースを大量に抽出すると環境に多大なダメージを与えるため、生産と取引の管理を強化した」と述べて、尖閣問題とは全く次元が異なることを表明していた。中国がレアアース問題で考えている真実が何か、それによって日本がどのような影響を受けるのかなど、日中両国が冷静な態度で本質的な問題に取り組むことを願って止まない。


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