アジアンインサイト
人民元、国際決済通貨へ向けた取組みが加速

2011年1月19日

  • アジア事業調査部 中村 哲也
中国政府が資本取引自由化へ向けた改革を進めている。1月1日に輸出企業が稼いだ外貨を海外口座へ預金することを認めたのに続いて、1月13日には人民元による対外直接投資が解禁された。本稿では最近の中国政府による人民元改革と資本取引自由化に向けた一連の動きが示唆する意味を再考する。

外国との経常取引自由化
筆者は近年の通貨改革は人民元の国際決済通貨化へ向けた地ならしと捉えている。中国は1996年にIMF8条国へ移行し、外貨集中制の廃止(07年)を以って、経常取引で得た外貨については人民元との完全な交換性を実現した。つまり、外貨口座を通じて決済された外貨は自由に金融機関へ売却も出来れば、そのまま外貨口座へ滞留しておくことも可能となった。又、人民元が管理された変動相場制へ移行したのも同じ時期(2005年)である。

一方で、人民元による国際貿易決済は09年より試験的に始まり、10年6月には全国20の省・自治区・直轄市に所在する条件を満たした企業が世界の全ての国との貿易決済に人民元を利用できるようになった。この結果、足元では人民元による貿易決済が急拡大しており、一部報道に拠れば、10年6月~11月(6ヶ月間)の人民元建て貿易決済額は3,400億元(貿易額全体の3%)となった模様。

外国との資本取引自由化の動き
これに対して、資本取引に関しては、外貨の人民元への交換、人民元による決済のいずれもかなりの部分で規制を未だ残す(中国はOECD加盟国ではないため、資本取引に関する自由化の義務は課せられていない)。対内直接投資についてはブラックリスト項目を除き、外貨の人民元転の自由化が原則的には実現済みだが(78年以降)、資本金口座は金融当局によって定期的に検査を受ける必要が有る。

中国企業による対外直接投資は、01年頃より積極的に推し進められたが(走出去)、全て外貨決済が原則であった。中国企業は外貨自己資金、規定要件を満たした国内の外貨融資、人民元から両替した外貨或いは現物出資によってのみ直接投資を認められた。1月13日の人民銀行公告は、既に経常取引について人民元決済が認められた一部地域を対象に、人民元による中国企業の直接投資を解禁する旨を通知した(「中国人民銀行公告2011第1号」)。

中国が人民元の自由化を進める背景として、(1)国際収支として国内に還流した外貨を国外へ再還流させることによって元高圧力を多少でも緩和させたい狙い、(2)人民元による直接投資の増加を通じて国内の人民元の需給を引き締めようとする思惑(インフレ抑制)、(3)人民元の国際決済通貨化に向けた布石として先ずは物理的に人民元を海外へ流通させる必要性などを挙げる。経常取引と資本取引における人民元決済の解禁の動きは人民元切上げと並ぶ重要な通貨政策として注目を集めよう。

外国との証券投資自由化の動き
人民元取引の緩和・解禁の動きとしてもう1つの注目すべき点は、証券投資に関する資本取引の自由化であろう。当局は、直接投資は実需に裏打ちされた長期の為替取引であるため、合法性、実在性を伴いさえすれば為替管理上特に問題ないと考えているようだ。01年以降に積極的に推し進められた走出去、09年に解禁された経常取引に関する人民元決済に次いで、今般、直接投資に関する人民元決済が解禁されたのは規定路線と読めなくも無い。

これに対して、短期の金融取引が中心となる証券投資に関しては投機を抑制するために未だ多くの規制が残るものの、非居住者(外国人)に証券投資の為の外貨人民元転を認めたQFII制度(02年)と、居住者(国内投資家)に対外証券投資を目的とした人民元持出しを認めたQDII制度(09年)に見られるように、規制緩和・自由化の流れが拡大している。人民元による証券投資決済が解禁される日も近いのかもしれない。


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