アジアンインサイト
中国経済は構造転換できるか

2010年12月6日

  • アジア事業調査部 中村 哲也
実質5~6%成長が10年、2~3%成長が10年続けば、2030年の中国の実質GDPは10兆ドル~13兆ドル、1人当たりGDPは6,700ドル~8,200ドルと試算される。世界金融危機下でも高い経済成長率、欧米先進国に比べた潜在成長余地の大きさ、良好な国家財政及び恒常的な経常収支黒字、生産人口の増加は2030年頃まで続く見通しであることからも、上述の見通しは非現実的ではない。

内々格差が内需拡大の原動力
成長要因として最も注目するのは内々格差の大きさ、即ち内需拡大余地の大きさである。08年度の統計によれば、個人消費の4割は13億人のうち上位2割の高額所得者らが占めている。残りの8割は未だ6割の消費を支えているに過ぎない。彼らの年間所得は約2千ドルと計算され、これはベトナム、インドの2倍、フィリピンよりやや高く、インドネシアよりやや低い水準に位置する。中国は、彼らの所得が今後2倍、3倍と増えていくことによって消費を中心とする内需拡大型の経済へ移行しつつある。

08年の地区別1人当たり所得に拠れば、全国平均の同指標が前年比15%増であったのに対し、沿海部は10%、東北地区と中部地区は17%となった。09年、10年に関しても家電下郷、4兆元対策などの景気刺激策が執行された主な舞台は地方都市、農村であったことを思えば、同傾向はあまり変わっていないかむしろ加速している可能性が高い。

内需拡大を支援する条件
内需拡大を促すためには、為替の元高調整を通じて購買力が底上げされ、内々格差を縮小へ向かわせるような構造改革が必要である。具体的には、中・低位所得層の所得拡大のためには第3次産業の更なる発展が不可欠であり、農業生産性の向上も必要である。その為にも、為替レートの変動相場制への移行、自由貿易協定を通じた産業構造の改革、決済通貨として人民元の普及、資本市場の一層の開放は規定路線となろう。

輸出主導から内需拡大へ経済構造の転換を図りたい政府の意思は、2010年を通じて一層明確になったと思う。それまで緩和状態に有った金融政策スタンスを変更し(1月)、グローバルインバランス改善に一層前向きに取り組む姿勢を打ち出し、人民元の変動幅拡大を容認し(6月)、クロスボーダー人民元決済の試行対象地域を拡大し(8月)、将来の人民元決済通貨化に向けて布石を打ったのが2010年なのかもしれない。党大会を経て発表された次期5カ年計画案には「内需拡大」が成長戦略の柱に据えられた(10月)。

中期リスク
中期的なリスクは、(1)GDPに占める固定資本形成の割合が相対的に高いため、将来に資本ストック調整を迫られるリスク(償却コストの先送り)、(2)08年末から10年初めに掛けて形成された固定資産の中には投資採算性の低いものが含まれるため、これが銀行のバランスシートを毀損するリスク、(3)金融引締めがオーバーキルを引き起こし、資産価格が急激且つ大幅な調整に見舞われる可能性などと考える。

しかし、これら中期リスクを過度に懸念する必要は無いだろう。不良資産が当局の推定範囲に治まれば、銀行の現在の自己資本でも十分に吸収可能である。一方で、中国の資本市場は未だ開放途上に有り、為替も管理された変動相場制であるため、バランスシート不況に嵌る以前に政策によって対処できる裁量余地は十分に大きい。

長期リスク
長期的には、中国経済がバランスシート不況に陥るリスク(デフレ)に関心を払うべきと考える。10年後、20年後には、為替が変動相場制へ移行し、資本市場は現在の日本並みに開放が進んでいるかもしれない。自由化によって裁定取引が可能となれば割高な資産価格は叩かれるのが市場原理だ。その頃までにはいずれの経済主体(国家、企業、個人)もバランスシートの大規模毀損に対するリスク管理と、グローバルなポートフォリオ管理が求められる。

一方で、長期的には、東・東南アジア、日本、韓国、オーストラリアを含む環太平洋地域で自由貿易圏が形成され、物とサービス、人と資本の自由往来が実現する方向へ向かいつつある。そうなれば、中国沿海部の労務コストが東・東南アジアで割高となるリスク、中国内陸部が立地条件の良いベトナム、インドネシア、ミャンマー、バングラディッシュなどに割り負けるリスクにも注目すべきだろう。


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