再認識させられたドイツの通貨問題

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G20会議が「通貨安競争の回避」など明記した共同声明を採択して終了した。一方、根本問題の「経常収支の不均衡(グローバル・インバランス)の是正」については、具体的な対応は先送りされた格好で、今後の結論が得られるのか不透明なままだ。円安誘導策を取る日本でも、通貨介入策は対症療法に過ぎないとして根本的な解決を求める声は小さくないが、根本的な問題の解決とは、経常収支が黒字を継続している状況を解消することに他ならない。


ここで筆者が改めて印象を強めたのは、古くから日本と共に対外不均衡問題で苦労を重ねてきたドイツの存在である。対外貿易の優等生として戦後奇跡の経済復興をとげた旧西ドイツは、ブレトン・ウッズ体制が揺らいだ時期にいち早く「変動為替相場制」へ転換し、マルクの切り上げを容認する姿勢をとった。完全な変動相場制移行までには曲折があったが、結局は変動相場制を全面的に受け入れ、通貨高に耐え得るよう製造業の付加価値を高めて対外輸出を経済の柱とする道を歩んだ。

ドイツの経常収支(GDP比)の推移

とはいえ、経常収支の黒字とは、本来的には貿易等で稼いだ外貨を自国通貨に代えて国内に持ち帰れば通貨高を招き、自然と黒字が出ない水準にまで通貨が切り上がる性質のものである(実際には為替介入等で必ずしもそうならないが)。外貨を無制限に溜め込むことにも繋がる面もあり、管理通貨制度下で長期に経常黒字を継続する意味を考えさせられてしまう。ドイツもかつては日本と同様にこの根本問題の解決(=経常収支黒字問題)に、悩み続けたと想像できるが、80年代末に転機を迎える。すなわち、ベルリンの壁崩壊による旧東ドイツとの統合、これによって90年代の経常収支は赤字状況が約10年続く(図表参照)。これでドイツの経常黒字問題は小休止となる(90年代の経常黒字問題は日米2国間の問題として残ることになる)。


さらに99年からは通貨ユーロが発足、対ユーロ圏外との経常収支黒字はともかくとして、域内の対外貿易の黒字獲得は通貨の切り上げに直結しなくなった事情も見逃せない。2001年以降、再びドイツの経常収支黒字は大きく増加へと向かうが、対外債権は自国通貨ユーロの割合が大きい分だけ70~80年代の悩みほど深くはならなかった。逆にこの間、つまりはユーロ圏の経常赤字国にしわ寄せが行き続けたと考えられるが、この点、先般のギリシャ財政危機問題の勃発はドイツの経常収支問題抑制と裏腹の関係と言えるのではないか。そうであれば、ユーロ圏においてギリシャ等の救済をドイツなどが率先して負担すべきとの論法も成り立つだろう。


今回のG20で提案された「2015年までに経常収支黒字・赤字幅を各国GDPの4%以内に抑制する」との数値目標設定は、新興国などの反対で取り敢えず見送られたと報道されている。ドイツも大きく反発したことが想像できるが、改めて通貨問題の矢面に立たされることとなったドイツは、このグローバル・インバランス問題に今後どう取り組むのだろうか。似た立場に立つ日本にとっても、大きな注目点といえよう。

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