上海の新車ナンバープレート規制事情

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今年8月の上海市私用乗用車ナンバープレートの平均落札価格は、前月を800元上回る40,169元と報道された。ナンバープレートの競売を行う上海国際商品拍売公司によると、8月に放出されたナンバープレートは9,000枚で、これは1ヶ月の枚数としては史上2番目の多さである(過去最高は6月の9,200枚)。北京市の新規ナンバープレート価格が130元であることを考えると、上海のナンバープレート価格の高さは突出している。


というのも、経済発展の著しい上海では、車両の増加が著しく、道路や駐車場の整備が追いつかない状況にある。慢性的な交通渋滞をこれ以上悪化させないために、上海市政府は新車台数を制限している事情があるのだ。新車を購入しようと思ったら、競売を通じてナンバープレートを取得しなければならない仕組みである。


上海における新車規制政策はシンガポールに範をとったと言われている。シンガポールは国土面積が狭いため、1990年から交通量をコントロールし始めた。これはVehicle Quota System (VQS)と呼ばれ、車を購入する前に車両購入権(COE)を入札で取得することが義務付けられている。シンガポールのThe Land Transport Authorityは毎年COEの発行数に上限を設けており、2008年は11万枚、2009年には8.4万枚が発行されている。


一方、上海でナンバープレートの競売が始まったのは意外と早く、シンガポールでVQSが導入された2年後の1992年である。ただ、当時は台数を制限することが目的ではなく、好きな番号を競り落とすためのものであった。その後、上海市政府は車両数のコントロールを目的に競売制度の整備を進め、1994年には「上海市私人自備車、両輪摩托車上牌額度競購弁法」が公布されている。これにより同年7月から毎月1回の競売が開始され、上海製のVWサンタナは20,000元から、上海以外で生産された車両は100,000元が最低入札価格とされた(地元産のVWサンタナには優遇策が付与)。その後、上海生産の車種優遇策は撤廃され、2000年からは最低入札価格を設定しない完全な自由競売が始まったのである。


過去の上海市におけるナンバープレート競売に関するデータを見ると、2002年の時点で平均落札価格は2万元台であったのが、2003年に3万元、2007年に4万元を超え、同年12月にはピークの56,042元にまで上昇した(図表参照)。これは人気小型車である奇瑞QQの小売価格39,800元よりも高い。また、上海市の一人当たり年間所得(2007年実績26,102元)との対比でみても2倍を超える水準であった。2008年以降、落札価格はやや低下する傾向が見られたが、2010年に入って再び上昇、1月から7月までの平均値は再び4万元に達している(因みに、この価格はシンガポールよりも高い水準である:2009年の最高落札額は5,889シンガポールドル、約3万元)。


このような異常ともいえるナンバープレート価格高騰を背景に、一部では周辺の都市で新車登録を行なって、車を上海に持ち込む動きが見られるようになった。例えば、上海から300キロ離れた南京では、ナンバープレートの取得価格はわずか124元ですむからだ。ただし、上海ではほかの地方のナンバープレートを付ける自動車に対して規制を設けている。平日の7:30~9:30と16:30~18:30の時間帯においては、上海外のナンバープレート車を内環高架・中環高架・南北高架・延安路高架などの市内高速道路や、黄浦江(上海市を流れる川)にかかる橋、トンネルへ進入することを禁止している。これに違反した場合には、200元の罰金が課されることになっている。もちろん、こうした規制に対して市民からは反発の声も少なくない。しかし、上海中心部の面積は狭く、自動車保有台数の増加を放置したら、交通渋滞は一層深刻化してしまう。上海市政府当局としては規制を妥当と判断するのは止むを得ないところだろう。


高度経済成長とともに豊かになった人々が、かつては夢であったマイカーを取得しようとするのは自然の成り行きである。特に所得水準の高い上海では、自家用車に対する需要は非常に大きい。しかし、上海の交通事情から考えると、新車の台数制限は止む得ない政策であろう。上海では今後もナンバープレート競売制度を維持するとともに、地下鉄やバスといった公共交通手段の整備に一層力を注ぎ、便利性が高く、環境負荷も小さい効率的な交通システムの確立が求められている。

発行枚数
平均落札価格(元)
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