アジアンインサイト
前提に捉われない中国のビジネス思考

2010年4月28日

  • 大和総研(上海)諮詢有限公司 邵嘉岩

先日、上海で日本の公的機関主催の中国マーケティングセミナーに参加した。そのセミナーで、筆者は特にアリババ社のビジネスモデルに目を引かれた。同社は中国最大の電子商取引(Eコマース)企業で、B2B、B2C、C2Cのいずれのプラットフォームを傘下に持っている。特に同社が持つB2C、C2C業務を展開する「タオバオ(淘宝):taobao.com」は2003年に発足して以来、6年という短期間で1億4500万(2009年6月末時点)にのぼる巨大な会員ベースを擁するまでに成長、2009年の取引高は前年比倍増の約2,000億人民元(約3兆円)に達している。同サイトは沿海都市部の若年層の中国人にとって、すでに身近で欠かせない生活インフラの一部となっている。

アリババは近い将来さらに前人未踏の地に一歩を踏み出そうとしている。ターゲットとしているのは、広大な内陸地域に住むコンピューターが苦手な中国人である。具体的には、中国の内陸地域に散在する個々の雑貨店の店主をパートナーとして、その雑貨店にネットにアクセスできる端末を置く。そして雑貨店の店主にネットショッピングの操作方法を教え込む。店主はその地域の高齢者を含む住民に対してタオバオ(淘宝)にて商品の注文代行サービスを提供し、配達されてきた商品の受け取りを代行する。つまり、中国のあちこちに点在する零細小売雑貨店をタオバオ(淘宝)発のビジネスモデルによって、全てを取り込もうとする試みである。この新たなビジネスモデルの導入により、中国で大多数を占めるオフラインの消費者をオンライン消費者に転換する効果が期待できると同社は考えている。

地方部の零細小売雑貨店はその多くが古く、店内は雑然としていることもあって、筆者は中国人としてこのビジネスモデルを成功に導くには多くの困難を乗り越える必要があると思うが、他方でこのような大胆な発想こそが同社の飛躍的な成長を支える力ではないかと考えてならない。同社の発想には、常に一般的な前提を疑ってみる思考法があると思われ、これは中国ビジネスで成功するための大きな要因もあると推察している。

これまで中国ビジネスを展開するにあたり、インフラが不備だとか、ビジネス習慣が違うなどといった理由で無理だと判断する日本企業の話をよく耳にしてきた。しかし、その理屈と経営判断の間には、必ず半ば常識とされた何らかの前提があることを忘れてはいけない。Eコマースビジネスを例にとると、PC普及率の低さゆえ中国のEコマースは一部の先進地域のみが対象となるとの見方は一般的な前提といえようが、この前提にはPCを持っていない人やPCが苦手な人にとってネット購買は無理との含意があるはずだ。しかし、Eコマースのフロー全体をプロセスごとに分けて検討すれば、端末上での操作はEコマースのプロセスの一部に過ぎないことが分かる。逆転の発想を持ち、雑貨店という既存インフラを上手く活用できさえすれば、アリババは自社のネットワークを一段と広げることができ、PCを持っていない地方部の個人やPC操作の苦手な人でもEコマースを利用することが可能と判断することもできる。以上のような視点で前提を再検討し、「可能性は十分ある」との結論に至ったら、新しいビジネスモデル構築のきっかけとなるわけである。単に一般に考えられる前提に則った事業展開では、ライバルとの差別化ができずにネットアクセスを持つコンシューマーのみを狙う激しい競争に巻き込まれるだけになりかねない。

中国は多くの民族が広い国土に住んでおり、また多種多様な地域文化を持つ国である。その分、様々な前提が成り立つ余地の大きい国ともいえる。さらにここ30年来、高度成長の恩恵を受けている一方で、中国は経済格差やジェネレーションギャップ等の社会問題が表面化しており、ハードとソフトの両面においてビジネスの前提も急速に変化している。従って、中国ビジネスを展開する時において「日本では常識だから中国でもそうだろう」という思い込みをしないことが肝要で、理屈と判断の間にある前提について常に再考を重ねる癖をつけたいものだ。こうした自己批判的な検討プロセスにおいては、経営判断の際にとかく見落とされやすい穴を見つけ出す効果もあり、無論、自社のビジネス・イノベーションにも直結し得る。中国ビジネスを成功に導くために、まず一般的な前提を疑うことを試してみたら如何だろうか。



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