中国で信用取引(融資融券)がスタート

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中国で株式の信用取引制度が開始、実需給に加えて仮需給を市場に導入する試みがスタートした。具体的には証券行政当局である中国証監会(中国証券取引委員会の略称)が3月19日に証券会社6社に対して試験的に融資融券(信用取引)の取り扱いを認可、併せて3月31日には上海証券取引所及びシンセン証券取引所が信用取引システムを正式に稼動させたことによる(※1)


中国では従来、株式市場の不安定要因となり得る信用取引が禁止されていた。しかし、中国株式市場の近代化には公正な価格形成が進むことが望ましく、部分的には投機的な要素が排除できないものの、仮需給の導入で市場に厚みを持たせることは市場の健全化において避けて通れない。直接的な理由は定かではないが、こうした健全化プロセスの一環として信用取引等の法制化によって適正なヘッジ機会等を提供することは株式市場の近代化にとって重要との判断があったようだ。なお、具体的な法制化は2006年に「証券法」が修正されたことにはじまり、証券会社は顧客に資金または証券を貸出することは法文上、既に可能となっていた。それから4年が経過、制度として信用取引がようやく解禁されたことになる。


一方、証監会と上海ならびにシンセン取引所が発表した「管理方法」及び「実行細則」を見ると、実際の信用取引実施のハードルは高いことがわかる。その具体的な条件は表2の通り公表されているが、例えば委託保証金率は50%以上となっており、日本の30%に比して低いレバレッジしか認められていない。また、顧客は最低でも預かり資産が50万元(約660万円相当)以上でなければならず、さらに、職業や年収、保有資産、投資経験など詳細な個人情報等をもとに厳格な審査をパスして、事前に研修を受けることも必要なようだ。
売買対象についても、現実には深センA株40銘柄、上海A株50銘柄、合計90銘柄に限られている。その中には、中国エネルギー大手のペトロチャイナ、中国平安保険、中国工商銀行、不動産大手の万科企業などが含まれている。信用買いの金利は7.86%、貸株の金利は9.86%に統一されている。


加えて、貸株の際の価格は、最新の取引価格を下回ってはならないと規定されている。これは、貸株が相場の急激な下落を引き起こさないような工夫といえるだろう。この他、中国の信用取引制度では、証券会社の資金・株券調達についても海外市場と差異が見られる。特徴のひとつをあげれば、当初の実験段階では証券会社は自社持ちの資金あるいは証券だけ信用取引に使用でき、日米のように市場から資金及び証券を調達する事はできない(中国と米国、日本との比較は表3を参照)。


以上のように、全体として中国政府が信用取引制度に対する慎重な姿勢が明白だ。実際、初日の信用取引はまだ取引量も少なく、市場における影響もほとんど無視できる程度のものであった。信用取引制度の導入が、中国の金融システムが国際化に向けて一歩前進したことは間違いないが、ヘッジ目的をはじめとして多くの投資家が自由に取引可能となり、市場で一定の存在感を持つには今しばらくの時間が必要なようだ。

表1 信用取引認可証券会社

会社名 2009年末の時価総額(億元) 2009年末の純資産(億元)
国泰君安(Guotai Junan Securities) 未上場 152
国信証券(Guosen Securities) 未上場 89
中信証券(CITIC Securities) 1,811 358
光大証券(Everbright Securities) 908 94
海通証券(Haitong Securities) 1,431 360
広発証券(GF Securities) 1,255 88

【出所】第一財経日報wind データサービス

表2 信用取引制度の概要

  条件
対象証券会社
  1. (1)3年以上ブローカレッジ業務経験があり、中国証券業協会によって「創新」テスト証券会社に認定されていること
  2. (2)財務内容が良好で直近2年のリスク管理指標が規定に見合い、直近六ヶ月間の純資産が12億元以上であること、など7項目を満たす証券会社で、証監会の認可を受けたものに限られる。

対象証券 取引所が認定する上場株式、上場証券投資基金、上場債券、その他の上場証券である。上場株式については
  1. (1)上場後3ヶ月以上経過しており
  2. (2)買付代金貸付の場合、流通株数1億株以上あるいは時価総額5億元以上;売付株券貸付の場合、流通株数2億株以上あるいは時価総額8億元以上
  3. (3)株主数4,000人以上
  4. (4)全株流通改革(非流通株を流通株に転換すること)が終了している
  5. (5)管理銘柄に指定されていない、などの条件を満たす必要がある。

委託保証金 委託保証金率は50%を下回らない。委託保証金は現金の他に有価証券での差入が可能で
  1. (1)上海取引所180指数構成銘柄及びシンセン100指数構成銘柄については掛目は70%、その他の株式は65%未満とし
  2. (2)ETFの掛目は90%未満
  3. (3)国債の掛目は95%未満
  4. (4)その他の投資基金及び債券については掛目は80%未満とする。

担保比率 顧客の委託保証金あるいは信用取引で取得した資金及び証券は全て証券会社への担保になる。担保比率=(現金+信用証券口座内の証券時価)/(貸付代金金額+貸付株券売却時価+利息及び費用)。顧客はこの担保比率を130%以上に維持しなければならず、130%を下回る場合には、2営業日以内に担保を追加しなければ強制決済されることになる。

【出所】中国証券取引委員会ホームページ

表3 米日中各国における信用調達の比較

  米国 日本 中国
証券会社の主な資金
調達ルート
自己資金、担保ローン、債券レポ取引、顧客保証金残高 自己資金、担保ローン、債券レポ取引、証券金融会社からの融資 自己資金
証券会社の主な株券
調達ルート
信用取引で取得した担保証券、自己証券、金融機関(その他の証券会社、保険会社等)から借入れた証券、顧客証券残高 信用取引で取得した担保証券、自己証券、証券金融会社から借入れた証券 自己証券

【出所】中国証券取引委員会ホームページ

(※1)信用取引の条件として証監会は、証券会社の直近6ヶ月の純資産が50億元以上であることを求めており、開始当初は6社のみの限定的な取り扱いスタートとなった(認可証券各社の規模など概要は表1の通り)。



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