08年10-12月期から中国でも消費の減速が顕在化した。社会消費財小売金額を見ると、08年を通じて概ね対前年比20%台前半の増加が続いてきたのが、09年に入ってからは20%を割り込み、足元では15%まで伸び率は低下している。しかしながら、減速傾向にはすでに歯止めがかかっており、中国の消費の底堅さが改めて確認された格好といえる。


中国の消費減速に歯止めがかかった一因として挙げられるのが、家電下郷をはじめとする中国政府の消費刺激策である。家電下郷とは、農村部の家電普及率上昇を促進するために、指定された機種について13%の補助金を出すという政策である。07年に一部の省で試験的に実施された後、09年2月に全国で開始された。対象となる製品はテレビやエアコン、洗濯機、電子レンジ、PC、携帯電話などである。製品ごとに販売価格の上限が設定されており、対象となる機種は入札によって決められる。現時点の家電下郷対象機種は、5月に発表された入札結果によるものである。


家電下郷の対象製品の中では、冷蔵庫と洗濯機、テレビが特に売れているようだ。世帯普及率は冷蔵庫・洗濯機とも中国の都市部では100%近いのに対して、農村部ではそれぞれ26%、46%にとどまっている。テレビは農村部でも世帯普及率は90%を超えているものの、CRTテレビから液晶テレビへの買い替えが農村部でも始まりつつあるものと考えられる。他方、携帯電話は家電下郷による販売増はほとんど見られない模様である。携帯電話の場合、山塞機と呼ばれる安価なホワイトボックス携帯電話の市場が中国には存在しており、消費者にとって13%の補助金が大きなメリットとして感じられないことが要因と推測される。


家電下郷の対象に選ばれた機種を見ると、どの製品においても圧倒的に中国ブランドが多いことがわかる。たとえば、冷蔵庫は681機種が家電下郷の対象だが、このうち98%が中国大陸のブランドである。同様に洗濯機は834機種が対象で、94%は中国大陸のブランドである。テレビについても402機種のうち94%が中国大陸のブランドとなっている。このように家電下郷において日系を含む外資ブランドが少ないのは、家電下郷の上限価格に収まる機種を一部しか持っていないためだろう。上限価格はテレビの場合でRMB 3,500(約49,000円)、冷蔵庫はRMB 2,500(約35,000円)、洗濯機はRMB 2,000(約28,000円)である。テレビを例にとると、外資ブランドでRMB 3,500以内の価格帯は32インチ、せいぜい37インチまでだろうが、中国のブランドは42インチも家電下郷の対象に入っている。


中国経済が今後も高成長を続ける可能性は高い。所得水準の向上にともなって、高価格帯の製品需要も拡大するだろう。しかしながら、他方では家電下郷の実施によって改めて認識されたように、低価格製品が主体の巨大な市場が存在するのも中国の特色といえる。日本企業をはじめ外資企業にとっては高価格帯の製品に焦点を絞るのも一つの戦略だが、単価の低い市場を完全に無視するのも商機を逃すことになるはずである。外資企業は低価格帯の市場をどう攻めるべきか、案を練る時期にきていると考える。



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